神々の旗印240


 正太郎は、女王専用車両要塞〝ウィク・ヴィクセンヌ〟の艦橋ブリッジで女王の姿のマリダと謁見中だった。その場には、女王マリダ以下、軍の幕僚、そして将校、お付きの従者のみが連座している。

「いいえ、あの浮遊戦艦から聞こえて来た小紋様の声は、間違いなくわたくしと正太郎様の二人をピンポイントで狙って来たのだと思われます」

「へへっ、てえことはよ。もし、あの声の主が本当の小紋のもんであろうとなかろうと、その裏にはそれを画策した存在が居るって話だな」

「わたくしもそう思います、正太郎様。あの浮遊戦艦からの言葉の内容をこの地に住まう民衆に聞かせるのと同時に、間違いなくわたくしたちに対しても動揺をうながしていたのです。それはとても厄介なことだと言えます」

 その時、艦橋に居る者たちは全て押し黙った。

 なぜなら、ということは、間違いなくそれを陰から画策した者は、こちら側の内情を良く知っていると推測出来るからだ。

 唐突に浮遊戦艦が現れて、その一手目に二人に馴染み深い〝鳴子沢小紋〟と思しき者の声で呼びかけて来る。こんな作戦を考えて来ること自体が普通ではない。

 そしてさらに、浮遊戦艦はその後何も攻撃を仕掛けて来る様子がないのだ。あの浮遊戦艦は、地球のグランドキャニオンの岩山を想起させるほどの巨大さを誇っている。ならば、余程の火力と戦力が搭載されていることは想像するに容易い。にもかかわらず、敵側は直接的な武力を行使せず、各寄留に〝甘言〟を呼びかけるだけで、その魅力に吸い寄せられた人々を次々と収容していると言っただけなのだ。

「これでこちら側から武力行使をすれば、傍から見ればこっちが悪もん扱いってなわけだ。ホント、胸糞が悪くなるぐらい良く考えられてるよ……」

 正太郎は、苦虫を嚙み潰したような表情で艦橋から遙か遠くを目で追う。

「本当に敵側の黒幕は切れ者のようですね。軍略家というより、切れ者の政治家といったところでしょうか……」

 マリダも半ば感心したように言うが、少しだけ歯切れが悪い。

「こりゃあ、時代が変わったんだな。もう、俺たちのようなドンパチばかりの戦略家はお払い箱ってなわけさ。なあ、そうじゃないですか、剣崎大佐?」

 正太郎の乾いた口調に、その場に連座していた剣崎大佐も、

「ああ、貴様の言う通りなのかもしれんな、羽間少佐。あの敵と思われる浮遊戦艦の向こう側には、私ら以上に腹の中に黒い物を持つ連中が顔を連ねているのかも知れん」

「連中? やはり剣崎大佐もあの先の黒幕には複数人が居るとお考えか?」

 そこに、連座していた一人の幕僚が口を挟む。彼とてあの戦乱を生き残った名だたる将軍の一人である。

「ええ、その通りですとも、少将。私も一人の軍略家の端くれ。少なくとも、あの一連の動きからそのような意志は感じられます。ただ……」

「ただ?」

「ええ、ただ……。まだ、彼奴等きゃつらの真の目的なるものは見えて来てはおりませんが……」


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