神々の旗印224
確かに大尉の話には合点の行く所があった。
正太郎は元来、珍品や世にも珍しい一品物を売りさばくことを生業とする商人である。それを言い換えれば、
「日常に
と言い表せる。
しかし、こちらにおわす七尾大尉にして見れば、
「そんな非日常を平穏な
だと言い表せる。
つまり、彼らには彼らなりの目的の違いと言うものが根本原理として存在しているのだ。
どうしても新しいものを生み出す人々は、非日常的な極端な理想を掲げてそれを目標としなければならない。しかし、平穏な日常を運営してゆくには、
その
「しかし、羽間少佐。何も私はあなた方を否定しているのでは御座いませんよ。世の中にはあなた方のようなピリリと辛い機智に飛んだ種類の人々がいなければならないのも道理だと思っとるのです。現に、少佐や桐野博士といった方々が居なければ、あの以前の戦乱も新政府軍の思うがままに事が運んでしまっていたでしょう。その意味は、厳然たる結果として表れている浮世の現実とも言えます」
七尾大尉はそこで柔和な笑みを浮かべた。それが正太郎にはとても印象的だった。
彼が若い頃に世話になった恩師、ゲネック・アルサンダールも幾度かこんな表情を彼に向けてきたことがあった。恩師ゲネックは言った。
「羽間正太郎。お主は善き世の中にも悪しき世の中にも変えてしまう力を持っておる。だが、その力は決して平常の世に使用してはならぬ」
「な、なぜだ? ゲネックのおやっさん。なぜ今さらそんな事を言う? なぜ俺ァ平静な日常を生きられない!?」
「それはお主がお主として生まれて出て来た由縁なのだ。その役割からは決して抜け出せん」
「し、しかし……もし、俺が平静に身を委ねたとしたら?」
「それはこの世の中に災いをもたらす」
「わ、災いをもたらす……だと?」
「そうだ。その災いはお主自身にだけではなく、この世の全てを非情な戦禍に巻き込むであろう……」
「何だって!?」
「心するのだ羽間正太郎。何事も過ぎたるは猶及ばざるが如しだ。お主には過ぎたる力が備わっておる。その使い道を見失えば、やがて人々の目を野獣の群れに先祖返りさせてしまうやもしれん。心しておくのだ……」
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