神々の旗印225


 過去に恩師ゲネックの言った言葉の意味が、今更になって理解出来るようになろうとは何とも皮肉なものである。

「お言葉ですが、少佐殿。わたしが考えるに、烈風七型を設計した桐野博士もその事を知っていて、あなたに烈太郎君を預けたのでは御座いますまいか? 流石にわたしも桐野博士のその目的とやらはてんで見当もつきませんが、どういうわけかそんな気がしてならないのです」

「桐野博士がですか? う、ううむ……」

 正太郎は言われて当然黙り込んだ。

 確かに桐野博士と言う男は、一癖も二癖もある相当な風変りな偏屈者だった。だが、前に話に出た鈴木源太郎博士同様、考えにどこか一本筋が通っていて、しかも近視眼的な物ごとの考え方をしない。彼自身はそう思っていた。しかし……

 正太郎が今まで出会って来た大天才と呼ばれる人々には、大きく分けて二種類の人種が存在する。

 先ず一種類目は、普段から研究段階に至るまで全ての見方や考えが近視眼的であり、まるで普段の日常までを顕微鏡で覗いているかの如く生活しているパターンのタイプ。そして二種類目は、普段の日常をそつなくこなしながら、その上、もっと広い視野と未来を見据えているパターンのタイプである。

 どちらの大天才にせよ、七尾大尉が言う通りに、ピリリと辛いパンチの利いた何かを世の中に打ち出すエネルギーを有しているものだが、後者に至ってはやたらと人々を手のひらの上で踊らせてしまうと言う難点がある。

 時に、前者に至ってもそういった場面を度々見掛けたりするものだが、前者の場合は人々を手のひらの上で踊らしたりするのではなく、

「人々の心をかき乱して惑わしてしまう」

 という悪い行動が極めて目立ったりする。

 しかし今の時点で、桐野博士が正太郎に烈風七型を預けている行動自体が、前者のうちの二つのどちらかなどと、到底判断することなど出来やしない。

「なあ、大尉。俺ァ、先日の御前会議でもあった通り、軍師でありながら誰かの手のひらの上で踊らされてここまで来ちまったことをホント悔いている。もう、悔しくて悔しくて仕方がねえ」

「それは誰しも同じ気持ちですよ、少佐」

「ああ、確かにそうなんだけどさ。だけど、このままじゃあ、この俺の気持ちの収まりがつきませんぜ。だってよ、これじゃあなんだか……」

 正太郎が眉間にしわを寄せ、軽く舌打ちをしたと見るや、

「いけませんなあ、少佐! ヴェルデムンドの背骨折りとも呼ばれた少佐ともあろうお方が、そんな子供染みた考えでは!!」

 七尾大尉が今まで見せたこともない針のむしろのようなギラギラした眼差して叱責してきた。

「宜しいでしょうか、少佐? 確かに戦争に勝った負けたは付き物です! しかしですな、今の少佐の考え方はとても危険だと断言できます!」

「は、はあ……」

 正太郎は七尾大尉の迫力に圧倒されて言葉も出ない。

「宜しいですか、少佐? そこは誰かに勝ったとか負けたとかで計れる意味合いではありません! 特にあなた様のお役目はそれ相当の軍師なのですから、今の状況をいかに好転させるかを考えねばならないのです! それがあなた様に備わっていると周囲の者たちが思っているからこそ、あなた様はそのお役目に立っているのです! そうでなければ、あの戦乱で散って行った者や、肉食系植物の犠牲になった人々もあの世で浮かばれますまい! あなた様はあなた様である以上に、みんなのあなた様なのだということを肝に銘ずるべきだと思うのです!!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る