神々の旗印203


 正太郎は男共をあおりまくった。当然、自分が暴れ足りなかったからだ。

 彼は、自分が蒔いた種で負のスパイラルに取り込まれた。にもかかわらず、そのさをこの男たちにぶつけて晴らしたいだけなのだ。

(こいつらは正真正銘のクズだ……。そしてこの俺もこいつら以上に真のクズ野郎だ。どっちもどっちのクズの集まりだ……)

 正太郎自身はいきり立つ反面、内心自分の置かれた状況が何であるか理解していた。だが、一旦点いた日が火がそうそう消えるものではない。

 そういった意味では、彼もこの採掘師の男たちと何も変わらない。彼らもまた正太郎と同じように、先行きならない現実の壁に不安を抱え生きている。そんな彼らはお互いに他人を巻き込んでいたぶり合っているだけの話なのだ。

「オラオラ、どうした!? さっきの勢いはどこ行っちまったんだ!? 街のゴミはゴミ同士で傷を嘗め合おうぜ!!」

 正太郎の煽り言葉に、作業員共の野蛮な心が再燃する。

 正太郎はリーダー格の男の顔目掛けて右こぶしを繰り出すと、その背後から別の男がそこら辺に落ちていた板切れを両手に殴りかかって来る。

 それは見事に正太郎の背中に命中した。正太郎は一瞬息が止まったかのように気絶しそうになり足がよろける。そんなところを、今度はリーダー格の男が正太郎目掛けて飛び膝蹴りを食らわす。

「う、うぐっ……!!」

 正太郎は得も言われぬ苦悶の悲鳴を上げた。膝がどてっ腹に食い込んだのだ。

 彼は思わずひざまずいた。あばらの二本も持って行かれた激痛が肺の奥から染み渡る。

 そんな正太郎の様子に、

「おらおら、どうした優男のあんちゃん? どうやら威勢のいいのも最初だけだったな。所詮は多勢に無勢。いくらテメエが強かろうと、それはただのハッタリよう!」

 彼はそう言いい、顎で他の男に正太郎を羽交い絞めにさせる。そして、

「毎日反吐が出るぐらい汗水垂らして働いてる俺たちに、あの屈辱の言葉の償いだけはさせてもらうぞ!」

 とばかりに思いきり拳を振り出して来た。さすがに彼らは超重労働で鍛え上げられている。これをまともに食らったら、いかに正太郎であろうとも無事では済まされない。

 と、その瞬間――

「おらあ!! まだ終わっちゃいねえよ!!」

 正太郎は両足を振り子のように蹴り上げた。そして飛び掛かって来た男の顔面にその両足をカウンターヒットさせる。

「ぐ、ぐぶううっ……!!」

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