神々の旗印202

「お情けだと? へへっ、テメエら自分の顔を鏡でよく見てから物を話すんだな。そのどえらく貧相で傲慢な雁首並べて、どの口がそれを言うもんかねえ!」

 正太郎がジャケットのポケットに両手を突っ込んで睨みを効かすと、さらに路地裏から十四、五人ほどの似たような恰好をした作業員風の男共が彼の周りを弧を描くように取り囲んだ。

「へええ、今どきのゲッスンライト採掘師は男のケツの穴まで掘り起こしたいってか? そりゃあ残念だったな。俺ァ、股座またぐらに大事な宝物を二個ほどぶら下げちゃいるが、今は財布の中身はてんで一文無しだ。おまけに俺ァ、の世界にはまるで興味がねえと来たもんだ。そんなわけで一昨日おとといにでも顔を出すんだな!」

「なんだと!? この優男ヅラめ!! 女みてえにペラペラペラと好き放題言葉並べ立てやがって!! 誰が男のケツの穴を追い駆けているだと? 調子ぶっこいてんと痛え目見んぞ!!」

「ありゃりゃ、そりゃあ悪かったな。しかしよ、そんだけ男ばっかで群れてるのを見せつけられちゃあ、こちとら特別ケツの穴好きの変態野郎にしか見えなかったもんでね。そりゃあご無礼仕ったってもんだ。本当に勘弁よ!」

 と、正太郎は白々しく彼らの横を通り過ぎようとする。しかし、

「こ、この野郎!! 言うに事欠いて俺たちを小馬鹿にしやがったな! もう勘弁ならねえ! 素直にカネさえ出せば収まりをつけようと思っていたが、そうもいかなくなった! おい、野郎ども!! コイツを思う存分叩きのしちまえ!!」

 集団のリーダー格らしき男が切れ気味に号令をかける。と、取り囲んでいた男たちが一斉に飛び掛かって来た。

 どうやらこの作業員風の男共は、皆素手で正太郎を取り押える気だ。全員、飢えと日頃の苛立ちで非常に気が立っているようだ。が、それほど誰もが喧嘩慣れしている様子ではない。

 しかし、そんな相手でも正太郎は容赦しなかった。

(へへっ、仕掛けて来たのはそっちの方だぜ……!!)

 とばかりに、正太郎は一番手に殴りかかって来た男にジャンプ一番飛び蹴りを食らわせた。すると、その反動で背後に居た連中が将棋倒しのように真後ろに怒涛の如く倒れ込む。正太郎はそれが好機とばかりに次々と連中の顔をサッカーボールのように蹴り上げて行く。

 かと思うと、突然のことにひるんだ背後の数人に飛び掛かる。今度の狙いはそれら連中のあごである。正太郎は、まるで弾丸のように猛突進すると、彼らの顎に頭突きを何度もお見舞いした。

 それはたった数秒間の出来事であった。ざっと十五人以上も居た男共は、その半数が口から泡を吹き腕と指をピクピクさせ失神している。そんなあっという間の地獄絵図に、リーダー格の男は目に涙をにじませ膝を打ち振るい立ちすくんでいる。

「オラ、どうした!? テメエらは、この俺が何があっても絶対に許せねえんだろ!? 男のプライドを傷つけられていきり立ってんだろ!? なら掛かって来いよ!! この街でお寝んねするにはまだ宵の口だぜ? 一旦切った啖呵を飲み込めねえんだったら、最後まで意地を通すのが筋ってもんだぜ!!」

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