神々の旗印204
男の顔面は一瞬にして血みどろで埋め尽くされた。鼻の骨がひしゃげ頬骨の全てが陥没する。
「応よ! テメエらがこの俺に声を掛けてきたのが運の尽きよ! 今夜はとことん俺の憂さ晴らしに付き合ってもらうぜ!!」
正太郎はもう収まりがつかぬほど猛り狂っていた。
全てが思い通りに行かぬ苦しみ。そして焦燥――。さらに、もうじき起こり得るであることが噂される大戦への不安がその闇の心を助長させるのである。
(この俺には、地球での悲しい思い出が多過ぎた……。地球では、どこに居ても悠里子の匂いが漂い
それはまだ、ヴェルデムンド新政府が樹立する以前の話である。それだけに、この大地の治安は野蛮そのものであった。力こそが正義であると誰もが口をそろえていた。
そんなゲッスンの谷の夜はこのようないざこざなど茶飯事であり、ほぼ罪に問われることなどなかった。
彼のように存分に暴れまくった夜は、なにかと本能的に女が欲しくなる。どうやら人間というものは、人を痛めつければつけるほど、無意識に人類の生存過程を推し進めてしまうのだそうだ。
彼は血だるまの状態で街を徘徊した。
確かに彼は多勢相手に拳を振るい、その相手を完膚なきまでに叩きのめした。
だが、相手のリーダー格の男が言っていた様にそこは多勢に無勢である。いかに喧嘩慣れした正太郎であっても、無傷で事を終えられるほど現実はそう甘くない。
彼は、ウェグナンスゲート街の街はずれにある通称〝親不孝子不幸通り〟と呼ばれる花街に足を向けていた。そこに
「へへっ、しかしよ……。どうにもこりゃ参ったね。ここまで来ればどうにかなると思ったんだが、どうにも体じゅうに力が入らねえぜ……」
正太郎は苦悶に満ちた表情を浮かべていた。何とか壁伝いに手を突き一歩一歩唸り声を上げながら前に進んでいたが、とうとう力尽きてその場にぺたんとしゃがみ込んでしまった。。
「どうもこうもねえぜ。俺もとんだ焼きが回っちまったってもんだ……。身から出た錆とはこのことだな。せっかくこんな街はずれの花街くんだりまで歩いて来たってのによ……」
彼が深く息をするたびに、直接神経を針で刺すような激痛が全身くまなく襲って来る。これではどうにも女を抱くどころの話ではない。それよりも、今後、こんな状況でどうすれば良いものやら――。
そんな時であった。
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