神々の旗印174


 彼らは、あの激しかったヴェルデムンドの戦乱を生き残って来た無二の仲間なのだ。そこには言葉では言い表せない信頼関係が成り立っていた。

 彼らにとって、人も人工知能もない。それぞれの個体であるもの、そして固有の意識を持つ者こそが真の仲間なのだ。そこに人間だとか機械であるとかの垣根など一切無い。

「イーアンさんは、最後の最後まで俺たちの仲間だっただすです……」

 エセンシスは、その細身の巨体をくの字に折り曲げて感情を表す。

「そうでゲスよ。あんなに痛めつけられた体でよくもこんな戦地に……」

 筋肉ダルマの兄、マドセードもがっくりと肩を落とし、それ以上の言葉を無くした。

 正太郎は、そんな気落ちした二人に向き合うと、

「ああ、そうだな……。奴ァ、誰よりも俺たちの事を思って死んで行った。きっと、奴が自分の家族の元を出て行くときには、それが今生の別れだと覚悟を決めていたんだろうよ……」

「そうでゲスね……。きっとあのマーキュリーのことだから、それを知った上で……」

「もう、一緒に逝くことを決めていたんだすです……」

 高潔でプライドの高い性格だった人工知能マーキュリー。その人工知能としては特異とも言える人格は、歴代のパイロットによって形成されたものであった。

 そんな彼女が選んだのは、のちの人を生かそうとする、人と共に死ぬる意志によっての最後だった。

 人は相対的に成長を遂げる生き物である。そして、彼ら彼女ら人類をサポートする人工知能ですらも、人間と同様、互いが互いに影響をし合って進化を遂げている。

 しかし、今の正太郎には不安しかぎらない――。

 なぜなら、あの黒塚勇斗の異様なる力を持った行動が現実となって表現されてしまったからだ。

「なあ、マドセード、エセンシス。テメエらも見ただろう? あの勇斗の変わり果てた姿を……」

「ああ、見たでゲスよ。角と羽根の生えた……」

「あれはまるで、中世の人たちが考えた悪魔の姿だすです……」

 

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