神々の旗印173

 辺りはもう、無造作に落下した草花の残骸によって元の森の原型を留めていなかった。勇斗と早雲のぶつかり合ったエネルギーの渦が与えた衝撃である。

「いくら元武器商人の俺だって、こんなとんでもねえ兵器にお目に掛かったこたぁねえってもんだぜ……」

 死にぞこないの赤い巨人の上に積もり積もった緑色の粉塵。そして、死に絶えた無数の羽の生えた人類もどきの遺体の山。

 まだ、正太郎は核戦争と言うものを体験した事はない。が、もし、そのような事態が起きてしまった事を考えると、背筋にゾッと冷たいものが走らずにはいられない。

 とは言え、辛うじて正太郎は生きている。腕も足も、そして全ての体の部位それぞれも皆無事である。

 正太郎は一先ず息を飲んだ。これだけの事があって、ここに命があっただけでも天からの賜物である。

 いや、もしかするとあの賢い早雲のことだから、正太郎の命が残る事も計算ずくなのかもしれない。

「……ってえことはよ。あいつら兄弟も、くたばっちゃいねえよな」

 彼の言う〝あいつら〟とは、勿論マドセードとエセンシスのことである。彼らも早雲同様、正太郎のピンチを救いに駆けつけて来ていた。そんな彼らを、早雲が見す見すこんな茶番に巻き込むはずがない。

 案の定、

「おおい! 背骨折りぃ!!」

「背骨折りさぁん!!」

 草花の粉塵によって辺りが薄暗くて良く見えないが、聞き慣れた兄弟たちの声が遠くの方から聞こえて来る。

「おう! マドセード! エセンシス! こっちだ。こっちにいるぞ!」

 正太郎は、声が聞こえて来る方向に自慢のレーザーソードを全開にして光で合図を送る。

 彼がレーザーソードを左右に振って合図を送る度に、粉々に砕け飛んだ草花の粉塵がチリチリと焼け焦げて異様な匂いが立ち込める。

 マドセードとエセンシス兄弟は、その光と匂いを基にしばらくしてやっとの思いで正太郎と再会することが出来た。

「せ、背骨折りさん! 良かった、生きていたんだすですね!!」

「背骨折り!! 一時はどうなることかと思ったでゲス。しかし……」

 三人は顔を合わせるや否や、生き残ったという安堵感と、また生き延びてしまったという後ろめたい気持ちの交差の中で、言葉を選ばずにはいられなかった。

「ああ……。俺たちの命の土台には、またイーアンという掛け替えのねえ仲間が名を連ねちまった……」

「そうでゲスね。あと、あんなにお高く留まっていたマーキュリーさえも逝っちまいやしたか……」


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