神々の旗印175


 エセンシスの言う通りだった。

 あの魔人と化した勇斗の姿を一言で表すのなら、それは人が考え出した悪魔そのもの。人類が想像する限り受け継いできた異形の姿なのだ。

「奴ァ、まんまと誰かの誘惑に乗っかっちまったんだよ。情けねえ自分を生まれ変わらせるためにな。手っ取り早く強くなれる方法があると言い含められてな」

「手っ取り早く強くなれるでゲスか。でも、そんなんじゃあ、中身はすっからかんのままでげすよ………って、お、おい、背骨折り! それより、誰かのって、そりゃあ一体誰なんでゲス?」

「ということは、クロヅカ二等兵は好きでああなったんじゃなくて、誰かにそそのかされてああなったんだというんだすですか!?」

 兄弟らは、一度顔を見合わせると、もう一度正太郎を見やってあんぐりと口を開く。

「ああ、その通りさエセンシス。奴ァ、その誰かに唆されてああなっちまったんだ。あのセシルという女をエサにされてな」

「な、なんだって!?」

「そんな馬鹿な!?」

 そこで二人の顔色が一斉に蒼ざめた。

 ともなれば、いくら比較的頭の回転の鈍い兄弟でも一つ思い当たる節がある。

「ようやくお前らにも見えて来ただろう? この二つの世界を通じて起きている一連の謎が。そうだ、奴ァ、俺たち人類に様々な条件をけしかけて楽しんでいるんだ。ずっと近くから手ぐすね引いて見守っていやがったんだ」

「そ、そいつが、オラたち人類にこの世界に……ヴェルデムンドという世界に移住させた張本人だとでも言うだすですか、背骨折りさん?」

「あっしら人類が争いごとをすることを横から見ていて、それをニヤニヤ楽しんでいたとでも言うでゲスか、背骨折り?」

「ああ、そうだ、そうだとも。テメエらの言う通りだ。奴ァな、時には人間になりすまし、時には人間以外の何者かになりすましてこの世界を操っていたんだ。そして今回も、セシルと言う女をダシにして、まだ気持ちの土台も定まらねえ勇斗を唆してあんな風にしちまったんだ」

「一体、一体それは誰なんでゲス!?」

「誰が裏で糸を操っているんだすですか!?」

「ああ、それはな……」

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