神々の旗印165


「へへん、何だいそのへっぴり腰は!? 早雲、お前だってバカ力押しなだけの単なる一本調子じゃないか!!」

 勇斗は、そのおどろおどろしい格好に似合わず、まるで子供の喧嘩のような口ぶりである。

「だからあなたは子供だって言うんです! ろくに周りの状況も見ないで、自分のことばかり!!」

「それの何が悪い!? 人はみんな自分が生き残ることで一杯一杯なんだ! 自分が自分であることに精一杯なんだ!」

「そういう所が子供の証拠なんですよ! そんなんじゃあ、セシル曹長が生きていらっしゃられても、きっといつか愛想を尽かされてしまうのが関の山ってところでしょうね!!」

「な、なんだと!! お前、この状況でよくそんなことが言えたな! この俺が今一番言われたくないことをこうもズケズケトと!! だからお前は戦闘マシンの人工知能だって言うんだよ! 普通、人間なら死んだ人を引き合いに出してそんな事を言ったりしないもんだけどな!」

「ええ、そうですよ! わたしはどうせ冷たい心を持った機械染みた人工知能ですようだ! だけどユートさんなんか、そんな人工知能のわたしにすら馬鹿にされてしまう人間もどきのくせに!!」

「な、な、な、なんだと!! も、も、もう許さねえぞ! 早雲!! お前、どういう了見でそんなにこの俺を責め立てるんだ!!」

 勇斗は、見るからに焦りの色を濃くしつつ憤慨していた。それが早雲の作戦とも知らずに。

 正太郎は、傍からその様子をうかがって感心していた。

(早雲ちゃんは、決して心が冷たくてあんなことを言っているんじゃない……。勇斗の冷静さを欠かせるために、あえてあんな酷い例えを持ち出したんだ。なかなかやるな……)

 勇斗は早雲に対して、戦闘マシンの人工知能だと揶揄やゆしているようだが、実際には早雲の方が一枚も二枚も人間の何たるかを理解しているという表れだった。

 正太郎はこの状況を、

(これは見ものだ!)

 と直感した。

 なにせ、彼女は人間として進化し始めている。人間を超えようとしている。

 彼の相棒である烈太郎にしてもそうだが、彼らは一個体ずつであるものの独自の進化を遂げようとしている。そこに人間と人工知能の垣根すら無い。

 そんな早雲と、別の力を有した勇斗が戦闘で相まみえるともなると、元々、商人の性質さがを持った正太郎としては途端に別の興味が湧いてくるところである。

(こりゃあ、今後の世界の未来を占う上で、大事な余興になるやもしれねえ……)



 

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