神々の旗印162


 早雲は、彼女の挑発にムキになっている勇斗をよそに、

「まあ、少佐……、こんなひどい傷を負わされてしまっているなんて……」

 と、瀕死の重傷に喘ぐ正太郎の上半身を優しく抱きかかえた。しかし……

「うぐぐ……。早雲ちゃん、く、苦しい……。し、死ぬ……」

 正太郎の顔面は瞬く間に蒼白に彩られた。

 なぜなら、彼女は荒唐無稽なほどの馬鹿力である。彼女としてはとても愛情をこめて接しているつもりでも、はたから見ればプロレス技の強烈なヘッドロックをお見舞いしているにしか感じられぬからである。

「しょ、少佐!! ごめんなさい!! わ、わたし……」

 口から泡を吹く寸前の正太郎に、おろおろしてパニックを起こす美少女早雲。

 そんな荒唐無稽な光景をうかがっていた勇斗が、

「ハハハハハッ! ちゃんちゃら可笑しいね、早雲。だからおまえは生粋の戦闘人工知能だって言うんだ。そんなお前に、人間の何たるかを語られるなんざ、俺の人生なんて最悪だってもんだ!!」

 すると、

「そういう言い方をする方が最低です!! 大体、勇斗さんは他人ひとの上げ足ばかり……」

「だって本当のことじゃないか!! お前は戦闘マシンに搭載されるべく生まれて来た人工知能なんだ。それなのに、人間の何たるかを語り出したり、いきなりオスの価値を比べだしたりなんかして……。そんなの世間に許されるもんか!!」

「そうやって、いつもいつも。自分の言いたいことを人のせいにするところが最低だわ!!」

「なんでさ!? 絶対みんなそう思っているはずさ!!」

「いいえ、そんなことはありません!! そうやって世間がどうとか言っている時点で、自分の発している言葉に逃げ道を作っているだけなんです!! 言葉の責任逃れなんです!! きっと、その事実が無かったと証明された時には、あなたは〝みんなが言っていたから〟〝世間が言っていたから〟って、どこに居るのか分からない架空の人たちのせいにしてしまうんです!! そうやってあなたは今まで生きて来たんです!!」

「な、なにを!? この人間に成り損ないの人工知能の分際で!!」


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