神々の旗印154


 正太郎が焦りの表情で見つめていると、黒装束の少年が背中の大剣を引き抜いた。正太郎の構えるレーザーソードとはまるで質感が違い、切っ先が地面を擦るとその重さで深い溝が出来上がるほど重厚な素材で出来た大剣だ。

 少年はその大剣を片腕で軽々と振りかざし、それを一気に大上段から打ち下ろした!

「うおあっ!!」

 正太郎はその勢いに度肝を抜かれた。それは物質と物質が真正面から叩き合った時に生まれるただの衝撃ではない。まるで何千何万メートル上空から隕石が地表に叩きつけられた時に起きる猛爆発のようなエネルギーが一気に解放されたかのごとき破壊力なのである。

 正太郎の体は直撃を食らわずとも、粉塵が舞い散るが如く勢いで吹き飛ばされた。無論、その周辺で仲間割れと共喰いをしていた人類もどきも全て吹き飛ばされた。

 あるのは、大剣を振り下ろした黒装束の少年の姿と、それに追随する二体の人類もどきのみ。その四方半径百メートル内には、人っ子一人どころかぺんぺん草も生えぬほどの小さなクレーターが出来ていた。

「ぐ……ぐうう……」

 流石の正太郎でさえ、この攻撃は予測できなかった。正に物理法則度外視であり、理屈では想定不可能な離れ業だからだ。

 それでも彼は愛用のレーザーソードを手放さなかった。どんなに相手が予測不可能な攻撃を仕掛けて来ようとも、自らの戦略は真っ向から諦めない。なにせ、これが心理戦ならば、この相手の攻撃は相手に多大なプレッシャーをかけるための布石であるかもしれないからだ。

 人は、心技体の循環とバランスによって成り立っている。その要素の一つのみを完全にへし折るだけで、人を人として形成せしめる牙城を根底から崩しかねないのだ。

 その一手目をこの相手はへし折りに来た可能性が高い。そして――

「へへっ、やるじゃねえか……。そうこなくちゃ、俺が教え込んだ甲斐がねえってもんだ」

 正太郎は意味ありげに言葉を放つと、ニヤリと笑ってその場に立ち上がった。


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