神々の旗印148


 

 人工知能マーキュリーの声にはどことなくつややかさがあった。まるで元の鞘に収まった女房役を誇示するかのように落ち着きさえ醸し出していた。

「お前ら、何を考えている!? 早くそこから離れろ!! 後は俺が何とかする!!」

 正太郎がそう叫ぶと、

「ふふっ、さすがの背骨折りも焼きが回っちまったみてえだな……。お前さんのその機体の様子で……何が出来るって言うんだい……?」

「なんだと……?」

「このバケモンを……そんなで倒そうとするなんざ……戦略家の風上にも置けねえって話だ」

「イーアン!!」

「そうデスワ、正太郎サマ。ここはイーアン様の仰るトオリ、ワタクシたちの機体の動力源ヲ撃ち抜いてクダサル方が得策でシテヨ。イイエ、それ以外にコノお化けのような機体ヲ倒す手立てナンテ御座いまセンワ」

「何を言っている二人とも!! この俺がそんな安易な作戦を許すとでも思うか!?」

「ああ、思わないね……。だけどよ、背骨折り……。ここは一つ俺の言う通りにしちゃくれねえか……。俺の命はこれこの通りあと僅かだ……。そんな俺に出来るこたあ、こんなちんけなやっつけ仕事ぐれえだ……。アンタみてえに、派手な戦略も活躍も出来ねえ不憫な体になっちまったせいでよ……」

「ふざけるな、イーアン!! 作戦に派手もへったくれもねえ! 戦いってのは、生きて帰って酒のつまみの昔ばなしに花が咲くぐれえがちょうどいいんだ!! 勝手に自分の役割を決めて死に急ぐもんじゃねえ!!」

「……まったく、お前さんて野郎は、いつまでたっても……理想を笠に着やがる甘っちょろい戦略家だぜ……。あの世に行っても心配でおちおち眠れやしねえな。なあ、そうだろ、マーキュリー?」

「うふふっ、だからワタクシがあれ程言ったじゃありまセンカ、イーアン様。正太郎サマに限って、イーアン様の立てた荒っぽい作戦をご承諾されるはずないって」

「ああ、その通りだったな……マーキュリー。お前の助言はいつも……適確だ。俺は……お前と最後に戦えて……本当に誇りに思う……」

「ワタクシもデスワ、イーアン・アルジョルジュ様。きっと天国でも先代の騎士様……アストラ・フリードリヒ様も同じ思いでいらっしゃるはず――」

「ならば、マーキュリー……最初の手筈通りだ。あれをするぞ……」

「了解デスワ、イーアン様……。ワタクシ、イーアン様のご命令とアラバ、その手筈、何の疑いもなく実行デキマス……。ダッテ、そのご命令は御自分の願望を叶える為のコトデハ御座イマセンでしょうカラ……」

「すまねえ、マーキュリー……。やってくれ」

「了解イタシマシタ。ソレデハ実行イタシマス……。カウント入りマス。30……29……28……」




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