神々の旗印120



☆☆☆


 その時、正太郎がそっと目を開けると、そこにはどこか見慣れた懐かしい風景があった。

「こ、ここは……もしかして、学校なのか……? 俺が通っていた……」

 彼にはとても見覚えのある場所だった。よく授業の合間を縫って訪れていた屋上階にある物見台の屋根の上。酷く肌寒い寒空の下。彼はダウンの防寒着に身をくるみ、灰色に染まった雲の流れを感じながらそこに寝転んでいるのである。

 その校庭のど真ん中からは、どこかの部活動をする生徒の掛け声が絶え間なく聞こえてきており、まだ新入生のたどたどしさの残る幼声が季節の変わり目を際立たせていた。

 その時代――。

 地球は、周期的な自然現象から起こる天変地異により、春は厳しい冬を迎え、夏は秋の装いを感じ、秋には三日ばかりの桜の花が舞い散り、年を越す頃の冬の時期になると、酷く身に堪える猛暑に耐えねばならなくなっていた。

 このように劇的な環境変化を迎えたのは、正太郎が中学校に上がりたての頃。つまり、あれからもう五年の歳月が費やされたのだ。しかし、人類はまだこの状況を完全に受け入れることが出来ていない。

 大抵の人々はこのような状況に陥ると、

「とうとう我々人類に終末がやってきたのだ!!」

 と、口々に絶望的な何かを物申してしまいたくなる。

 がしかし、実際には長い地球の歴史から鑑みればこのようなサイクルも単なる自然現象の現れでしかなく、言うなれば神々の気まぐれの類いに他ならないというのが実情なのだ。

 とは言え、地球人類はそのような急激な環境変化に対処し得る手立ては整っておらず、しかも長年培ってきた生活する上でのノウハウでさえもあまり役に立たない状況である。

 その理由から、全世界では人間に限らずあらゆる動植物に危機が訪れた。

 そして海洋や地質学的な様々な面でも混沌が訪れ、やがて地球に住む人々の中でも老若男女に関わらず、その環境変化の激変に耐えられない要因を持つ者は自然淘汰されて行くのであった。つまり、世界人類の約半数以上が環境に耐えられず、死に追いやられてしまったのだ。

(これから俺達はどうなっちまうんだろうな……。どこに向かって行けば良いんだろうな……)

 正太郎は、多感な高校生という年頃でありながらも、まだ明日という未来に希望を見出せないでいた。



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