神々の旗印116


 正太郎は複数の敵と応戦しつつ、烈太郎が指し示す高感度モニターに目を向けた。すると、新たに襲い掛かって来る赤いフェイズウォーカーの実体部分を示す映像が、次第に肥大化するのが見て取れるのであった。

「な、何だよこれは!? コイツらの虚像部分が実体に変化して行ってやがる!!」

「そうだろ、兄貴! 今までオイラたちが実体のない虚像だと思っていた所が、だんだん実体になって膨れあがっているんだ!」

「てことはよ! つまりはコイツらみんな、全部が全部、全身が実体になって攻撃を仕掛けて来てるってことなのか!?」

 正に、嘘から出た真のような話である。赤いフェイズウォーカーたちは、その虚飾と欺瞞に満ちた機体を時間を経るにしたがって現実の物として変化を起こさせていたのである。

 この時、さすがの正太郎もひるんだ。戦略的な情報戦なら、ハッタリや嘘の情報を流布させることに因って、それがいつの間にか真実になってしまうということもある。だがしかし、目の前の虚像がいきなり実体化するなど常識では考えられるものではない。

「一体どういう仕掛けだ!? 一体どうなっているんだ!?」

「あ、兄貴ぃ! 敵の反応がどんどん増えて行くよう! 敵の体がどんどん実体化して行っちゃうよう!」

 正太郎は狂ったように二刀のソードを振り回した。しかし、冷静さを欠いた彼の攻撃はいつも通りの的確な攻撃とは行かない。なにせ、いきなり赤いフェイズウォーカーの虚像部分が物理的に実体化してしまったのだ。いかな彼とて、この状況をすんなりを受け入れられるものではない。

「兄貴ぃ、どうしちゃったの!? 兄貴らしくないよ!?」

 烈太郎が心配して声を掛けるが、どうにも調子を取り戻せるものではない。

「ク、クソッッタレ!! 何か変だ! 何か分からねえが、どうにもいつものように敵の動きが読めねえんだ! 一体こいつはどういうこった!?」

 普段の正太郎なら、いくら敵の数が多かろうとも類稀たぐいまれな動体視力と観察力で相手を粉砕してきた。

 だが、赤いフェイズウォーカーの虚像部分が実体化した途端、何故か彼の身体機能が衰えを見せてしまっている。

「お、おかしいよ! 兄貴のバイタルサインがどんどん下がってる! 兄貴の命の力がどんどん何かに吸われて行ってる!」

「な、なんだと!?」

 彼らが気づいた時にはすでに遅かった。何と、全てが実体と化した赤いフェイズウォーカーの集団は、烈風七型の機体をぐるりと取り囲むと、一斉に攻撃を取りやめ、両腕を左右に広げて機体同士が手と手を取り合ったのだ。そして、じっと何もせず、その異様なまでの鉄面皮からおどろおどろしいほどの眼差しを送って来るのである。

「こ、これは……何だ。何なんだ……!?」

 正太郎は叫ぶが、どうにも力が入らない。というよりも、まるで頭の上から重い布袋でも被せられたかのように体の自由が利かず、そして五感の全てを鈍く閉ざされたように閉鎖的な感覚を覚えるのであった。

「兄貴! 兄貴ぃ!! どうしちゃったの!?」

 烈太郎が、自らのミニチュアアバターで寄り添って懸命に正太郎を鼓舞しようとするが、

「何だ……。この嘘みてえに後ろ暗い気持ちは……? まるで俺が俺じゃねえみてえな感じだ……」

 正太郎はのっそりとした動きで、烈太郎の気持ちに応えようとしない。





  

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