神々の旗印106


 正太郎は言うや、スラスターの噴出ペダルを勢いよく踏んだ。すると烈風七型の機体はより一層の加速を増し、巨木の生い茂る密林を風が縫うように疾走する。

「兄貴ぃ! 右前方に空間の裂け目が!!」

 烈太郎が跳ねるような口調で言葉を投げつけると、

「応よ、烈!!」

 正太郎は、烈風七型の機体を最大戦速のままクルリと回り込み、

「でいやぁっ!!」

 と、空間の裂け目が完全に開く前にレーザーソードを突き立てる。するとその空間の裂け目から閃光が走り、真っ赤に燃え盛る爆風が天に向かって噴出して来るのであった。

「やったね、兄貴!!」

「おらよ、一丁上がりだ!!」

「でもオイラ、飛んできた破片を今調べてみたんだけど、どうやらアイツは赤くはなかったよ」

「ああ、んなこたあ先刻承知よ! それより次だ、烈!! このままどんどん行くぜ!!」

 正太郎は、今まで早雲の駆るクイーンオウルⅡ型の援護をすることで動けなかった。その分の鬱積をあたかも取り返すように縦横無尽に動き回る。

「しかしな、烈よ。俺は早雲ちゃんの援護に回ったことで、逆に奴らの動きを十分観察することが出来た。つまりな、奴らは結果的にこの俺に客観視する時間を与えちまったっていうわけさ」

「そうだね、兄貴。オイラも兄貴と同じことを考えてた。オイラだって、この訳が分からない動きをする敵にどうやって対処すればいいか行動予測出来る時間を貰った」

「そういうことさ、烈。これがもし、最初っから俺たち一機でこんな奴らにぶち当たっちまってたら……」

「こんな風に上手くは行かなかっただろうね」

「そういうことだ、烈!! 人は一人じゃ生きていけねえ。お前ら機械だって同じことさ。さあ、早速ここで得たケーススタディを各機のサポート人工知能にフィードバックするんだ!! お前らお得意の三次元ネットワークを使用してな!!」

 正太郎は言いつつ空間の裂け目を二つ同時に見つけるや、手の届く方にはレーザーソードを、そして百メートルほど離れた方にはソニックブームキャノンをすかさず撃ち込む。

「ほへえ、すごいや兄貴!! オイラが予測をする前に敵をやっつけちゃうなんて!!」

 烈太郎は、お得意のミニチュアアバターを正太郎の肩にすり寄せながら目を見開く。

「へへっ、簡単な事だぜ、烈。奴らは単に俺たちの機体に攻撃を仕掛けたくて堪らねえのよ。つまり、奴らがこの機体を攻撃する最適な場所を予期しておけば、そこが空間の裂け目の出現場所ってわけだ! 奴らも複雑に見えて案外単純なものさ」

「そうか、そういうことだったんだね!! それならオイラたちみたいに、一から行動予測なんてしなくていいや!!」

「ああ、相手が人間なら、一億人いたって考えることは人間ってこった。もしこれが別の星の宇宙人だったらどうか分からねえがな」

「そうなんだね、兄貴。兄貴は人間の習性を熟知しているもんね!」

「ああ、少しばかり場数を踏んで来たからな。さあ、烈!! ここで得たケーススタディをアルゴリズムに置き換えて小隊のみんなに伝えてやれ! 敵も俺たちと中身は変わらねえ、ただの人間なんだってことをな!!」

「アイアイサーだよ、兄貴!!」

 

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