神々の旗印88



 機体をくるくると独楽のように回転させ、銀光の竜巻を起こすエセンシス。それとは対照的に、直線的な力強さで急角度な反転を繰り返しつつ敵の機体を次から次へと薙ぎ倒す黄金色の突風マドセード。彼ら兄弟は、その機体色を金色と銀色に染め上げている通り、またの名を疾風の金閣と銀閣と呼ばれている。彼ら二人の奏でる速さと技術の連携攻撃は、縦横無尽に迫り来る融合体の化け物を、彼女の機体にほんの数メートルでさえ近づけさせぬのだ。

 早雲は、この怒涛の迎撃戦を目の当たりにして、

(ああ、なんて美しいのかしら。もし、ここに白夜の疾風と呼ばれていたイーアン曹長がいたのなら、ここはもう戦場と言う名のキャンバスね……)

 彼女は恍惚の表情で操縦桿を操りながら想像を巡らす。伝説のゲリラ兵士羽間正太郎が鍛え上げた彼らの勇士がこれほどまでのものかと息を飲む。

 そして自分の機体を目の前で守り続けてくれている烈風七型は、その黒光りした機体を微塵も動かさずとも、彼ら得意の二重の迎撃によって近づいてきた化け物どもを一機たりと逃さず撃ち落している。

(す、凄い、これは凄いわ!! 少佐の機体コントロールは本当に神技だわ!! 元が戦闘マシンのサポート人工知能だったからよく分かる。いくらフェイズウォーカーが人工の生き物だからって、下手なパイロットが扱えば姿勢制御に気を取られて余計な計算をしなければならない。その分、戦闘に必要な計算が手間取ってしまうわ。もちろん烈太郎くんの姿勢制御の感覚も素晴らしいんだけど、この状況で一つも体の軸がぶれていないってことは、それだけ戦闘に集中出来ているってこと!! いいえ違うわ。自分のマシンの戦闘だけじゃなくって、チーム全体の動向も全て頭の中で把握してしまっているんだわ!!)

 早雲は、実際の戦場を目の当たりにして感じるものがあった。これほどまでに人間とは出来るものなのか。あまりに不完全な生命体なのではなかったのか、と。

(ああ、なんてことかしら。こんな衝動は、この世に生を受けて初めて感じるわ。本当にわたしは人間になりたい。わたしは本当の人間になって、人間の可能性というものに触れてみたい……)


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