神々の旗印82
「その決意と意気込みカラ、騎士様はまだ試作段階だったサイボーグ化計画ノ実験台に自ら志願したのデス」
人工知能マーキュリーの語りは、まるで舞台の演劇を想起させるほど悲壮感が漂っていた。彼女は女優だった。まるで人間の機微をとことん知っているかのようなベテランの役者のようであった。それは何より、彼女がアストラ・フリードリヒという人物に対して深い畏敬の念を持っているからこそなのだろう。
勇斗は今、戦闘マシンのコックピットに居ながら、まるで観劇でもしているかのような錯覚に陥っている――。
アストラ・フリードリヒは、高度なビッグデータと自らの脳を通信回線で繋ぐ【三次元通信ネットワークシステム】を手始めに、肉体の一部を最大限に強化する【ヒューマンチューニング手術】を自らの肉体に施した。それは、先行く未来の人々に、自分や恋人のナターシャのような悲劇を味わわせたくないという一心からの行為だった。
「これは凄い……凄い力だ。まるで何も、世界の全ての出来事が手の取るように見える! まるで体が雲を掴めるように軽く感じられる! 他人の考えていることが手に取るように理解出来る!!」
彼らのあの悲劇を繰り返さないためには、この通信技術はてき面である。言葉など交わさずとも、一目瞭然で他人との意思疎通が可能だからだ。そして、自らがコンプレックスを抱いていた体の部位を機械に置き換えたことに因って本人にさらなる心の余裕が生まれ、精神的な安定を見込めることが分かったのだ。
「ううむ……。早くナターシャにこの気持ちを味わわせてあげたかった。五体満足に生を受けた僕でさえこれなのだから、きっと彼女ならばそれ以上の高揚感を得たに違いない……」
アストラは、この得も言われぬ余裕を授けられる事こそが全人類の最大幸福であると考えた。
そして、世界情勢が宇宙開発競争から、他次元開拓競争へと完全にシフトした時、
「あのダーナフロイズンとかいう巨大なウルトラコンピューターに、この途轍もない感情をフィードバックすれば、きっと機械神はヒューマンチューニング手術という神々しい技術を手放しで推進するに違いない……」
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