神々の旗印78


「た、確かにな、マドセード。テメエの言う通りだ。俺ァ、大事な奴が死んでゆく様を見る度に、そいつをもっと鍛え上げておけば良かったと後悔するようになっちまっていた。まるでテメエの言うところのスペシャルマンみてえにな……」

 正太郎は、たしなめられた台詞が心に響いた。マドセードの言い分がかなりの正論だからだ。

 もし、今の彼が思うように、この小隊のメンバーだけでなく、全ての人類に対して肉体的、精神的強化を図ろうとすれば、それは最早、彼らと戦い合ったヴェルデムンド新政府の考えと何も変わらない。強制的なヒューマンチューニング手術の施行と何一つ変わらないのだ。

 とは言え、どうしても自分の力や判断が至らぬばかりに、命を落としてしまったマルセーユの事を思うと、つい感傷的な思考に偏りがちになる。行き過ぎた完璧主義は、時に根幹を過剰な考えへといざなってしまう危険性がある。

「なあ、背骨折り。あっしらはあっしらが、こう言った作戦に出向くことなんて、何も辛いとは思っていないでゲスよ。それは、あっしらが、そういう役目を背負って生まれ出て来たんだと思い込めば、何も不幸など感じないでゲス。それよりも、あっしもエセンシスも、アンタとこうやってまた戦場に出られるのを楽しみに待ち望んでいたのでゲス。それは、あのイーアンにしてもそうだし、死んじまったマルセーユも同じことでゲス……」

 人間はいつか死ぬ。黙っていてもいずれ死ぬ。そして、生きとし生けるものは、老いを通じ必ず土に還ろうとするのだ。

 その普遍の道理を変えようとすれば、やがてどこかに破たんを来たす。彼らは、どこかでそういった観念的な部分を生まれた時から埋め込まれて来たのだ。そして、そういった観念的な部分を糧に、彼らはその一生を精一杯生きようとしているのだ。

「なあ、背骨折り。そう言えば、今のアンタが考えていたことに近い奴が昔おりやしたでゲスね……」

 マドセードが言葉柔らかに問う。すると正太郎は、

「ああ、そう言やあ、そんな世界全員超人思想の狂った奴がいたっけな」

 と、照れ隠し半分、今までの自分の考えを棚に上げて、唐突に懐かしむような表情で答える。「あのイーアンと最後の一騎打ちを遂げた騎士、アストラ・フリードリヒのことだな?」

 

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