神々の旗印77



 ※※※


「なあ、背骨折り。あの坊やを殿しんがりにするのは、なんか時期尚早だったのではないでゲスか?」

 時速40キロメートルほどの緩い進軍をしつつ、副官のマドセードは正太郎に語り掛ける。

 正太郎は、マドセードの通信画面に向き合いながら多少しかめっ面をしつつ、

「あ、ああ……確かにな、お前の言う通りかもしれねえな、マドセード。だがよ、この五人体制の場合、先鋒が一番索敵の重要ポイントになるからな。どの場所のレーダーサイトが使えなくなっちまった今、前方からの襲撃が一番堪えるのは明白だ。かと言って、その第二陣の援護をさせるには、不慣れな勇斗よりも、元々が人工知能上がりの早雲ちゃんが適任だと思う。何せ今でも彼女の計算力は生身の人間以上と来ている。それならば、残るは殿しんがりってこった」

「何も、殿なら弟のエセンシスに任せても良かったんではないでゲスか?」

「いや、それも考えたんだが、あのお嬢ちゃんと奴を近くに組ませるのは良くないと感じたんだ。なんて言うか、直感的に……」

「直感でゲスか? それまた背骨折りにしては珍しい……」

「ああ、俺もそう思う。だがよ、何となくなんだが、アイツとお嬢ちゃんを近くに置いておくのは得策じゃねえと思ったんだ。ホント、何となくだがよ……」

 正太郎の言葉がそこで途切れると、

「なあ、背骨折り。アンタ、まだマルセーユのことを……?」

 マドセードは、少し声のトーンを落とし問いかける。

「あ、ああ、まあな……。俺に、彼女の一件を忘れろと言うのは無理な話だ。甘っちょろい考えだったこの俺が、戦場に私事の感情を持ち込んじまったばっかりに、彼女は……」

「なあ、背骨折り。その話は忘れちまいなよ。だって、あれはアンタの責任じゃねえでゲス。現に、あのイーアンだってそう思っている。同じようにあっしらもでゲス。この野蛮なヴェルデの世界で、それを言い出したら切りがねえ! それとも何でゲスか? アンタは、アンタの思い描いた完璧な理想の形を、全ての人間に強要するってえのゲスか? それじゃあまるで、先の新政府の考え方と何も変わりゃあしねえってもんでゲス!」

「マ、マドセード……」

「いいでゲスか、背骨折り? アンタがもしそれを公けの場で言い出しちまったら、また新たな戦乱の種を生み出しちまう可能性が出て来ちまうでゲス。アンタがアンタ自身をどう思っているかは知らねえでゲスが、それだけの魅力と力を持った男なんでゲスよ、アンタという男は! あっしらが、何であの戦乱で命を賭けてきたのか思い出して欲しいでゲス! それは、未来への選択肢をたった一つの物にしないための戦争だったのでゲス! 決して今背骨折りが考えている、人類みんながスペシャルマンになることではなかったはずでゲス!」




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