神々の旗印74
勇斗が思わずズッコケて見せると、エセンシスがいきなり真剣な眼差しで、
「では聞くだすですけど、クロヅカ二等兵。なぜ、今回の参謀会議で背骨折りさんはそんな大胆な発言をしなければならなかったのだと思うだすです?」
「え?」
「だから、背骨折りさんが、陰謀家たちに直接大見得を切ってまで喧嘩を売らなければならなかった理由だすですよ」
「え、ああ、えーと、それはですね……」
勇斗は喉まで出掛かるが、明確には答えられない。
「もう、仕方ないだすですねえ。オラたちは、今後同じチームで動かなければならないのだすですから、これだけは知っておいて欲しいだすですよ。いいだすですか? 何も背骨折りさんは、好き好んで奴らに喧嘩を売ったわけではないだすですよ」
エセンシスは、溜め息をつきつつ腕組みをする。
「というと?」
勇斗は、怪訝な眼差しで聞き返す。
「背骨折りさんが、わざわざ上層部のお偉方に喧嘩を売って見せたのは、今後の自分たちの位置関係を明確にさせるためだすです」
「位置関係? え、えーと、それはどういう……?」
「もう、やっぱりこういう大人の話は、少年のキミには難しいだすですか? まあ、それでも軽く覚えておいて欲しいだすですが……。背骨折りさんは、まるでみんなから野獣のような獰猛なパイロットのように感じられているのかもしれないだすですけど、実のところ他の将校や士官に本当に恐れられているのは、彼が持っているそのカリスマ性にあるのだす。どうやら本人にはその気がないようなのだすですが、それが無い者から見れば、背骨折りさんの人を惹きつける力は脅威以外の何物でもないのだすですよ」
「あ、あそうか! なるほど! だから少佐は、自分がそう言った意思の無い事を、この軍の内部の人達に知らしめておかなければならなかったんですね!?」
「そうだすです。背骨折りさんは、今は自分の目的の為にどんどん邁進したいと考えているだけなのだすです。人類の敵となる凶獣たちの駆逐を目的としてね。なのに陰謀家たちは、自らの欲求しか目に見えていないのだすです。背骨折りさんは、そんな連中に余計な思惑の横槍を突っつかれるのは無駄な浪費以外の何物でもないと思っているだす」
「それで、あんな派手な言い方で?」
「そうだすです。彼が、そういうパフォーマンスをすることで、彼を良く思わない陰謀家たちの気持ちの矛先を別の方向へと向けさせる必要があったのだすです」
「な、なるほど……。なんか、凄いんですね。少佐って……」
勇斗は喉を唸らせで天を仰いだ。
「でも……」
「でも、なんだすですか?」
「でもなんだか、まるで……やっていることは、子供の世界とそう変わらない感じがするなあ」
言われてエセンシスはニヤつきながら、
「そりゃあ、その通りだすです。根っこのところは同じ人間だすですから。弱い人間ほど、一度付いた居場所を確保するのに執着してしまうものだすです。クロヅカ二等兵だって、陰謀家たちの気持ちも分らなくはないだすですよね?」
「え、ええ、まあ……」
ここで勇斗も、羽間正太郎やエセンシスたちと知り合わなければ、どう現在を迎えていたか知れたものではない。つまり、常に自分が自分のやる事で精一杯だったこということなのだ。その為に、その陰謀家たちも今でも自分のことで頭が一杯なのだろう。
だが、あの羽間正太郎という男然り、この目の前のエセンシス軍曹然り、互いが互いの力を存分に出し合い、互いの力量を存分に認め合い、足らない所を補おうとしている。まるでそれが当然の所業とばかりに。
きっとこれが、あの激しい戦乱を生き残らせてきた土台であり、積み重ねてきた
(そうか、何となく分かって来たぞ。あの特訓の意味が。ああ、俺も一刻も早くこの人たちの真の仲間になってみたい……)
そう彼が胸の中に言葉を刻み込んだ瞬間だった。
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