神々の旗印73



 ※※※


「しかし、よくそんな伏魔殿みたいな場所から傷一つなく帰って来れましたね。羽間少佐は……」

 作戦出発寸前、驚異的な速さで肉体的復活を遂げた勇斗は、機体調整に勤しんでいるエセンシスに問い掛けた。

 いくら秘密の多い作戦参謀会議上での話だとは言え、人の噂に戸は立てられぬ。正太郎と、彼を快く思わぬ陰謀家たちのゴシップは瞬く間に拡散されていたのである。

「そりゃあ、そこはヴェルデムンドの背骨折りとまで言われて来た男だすですから。そんないざこざなんて、今に始まった事ではないだすですよ」

「へえええ、そうなんですか。五年前の戦乱にも、そんなことがあったって言うんですか?」

 勇斗が、あっけらかんとした調子で聞き返すと、

「馬鹿なこと言っちゃあ困るだすです! 昔だって、そんなやり取りなんかは日常茶飯事だっただすです。世の中、そんなに単純には出来ていないだすですから!」

「え? だって、エセンシス軍曹たちの居た軍は、あのヴェルデムンド新政府に対抗したレジスタンスですよね? 反乱軍というからには、みんな同じ考えの集まりじゃないですか。なのになぜ、羽間少佐がその人たちとやり合わなければならないんですか?」

 勇斗は、ジェリー・アトキンスの姿をしたまま子供っぽい仕草でさらに問い掛ける。すると、

「もう、これだからクロヅカ二等兵は坊やだと揶揄されてしまうだすです!」

「え、ええええっ!?」

「いいだすですか、クロヅカ少年? どんなに名目上のレジスタンスを掲げた反乱軍とは言え、事実そこに集まっている人々の心の内なんて誰にも見えないものだすですよ。オラたち兄弟やイーアンさん、そして背骨折りさんといったメンバーのように、純粋に未来の多様性を考えて行動を起こしていた連中なんて、反乱軍の中でも少数派だったんだすよ? まあ、うちらの考えや行動を美化するつもりはないだすですけど、言っちゃあなんですが、その他の連中なんて、利権に反対するためだけに行動を起こしていたり、ただ単に反対することに快感を覚えて行動を起こしているだけだったりと、目に余る輩も多かったんだすですよ! 背骨折りさんは、そんな輩と毎日のように言葉を交わさなければならなかったんだすです!」

「そ、そうだったんですか……。俺、何も知らなかった……」

「まあ、クロヅカ二等兵は、まだ中身が十六才だから分からなくても当然だすですが、こういった構図は別に大人の世界も子供も変わらないと思うだすです」

「な、なるほど。そ、そう言われてみれば……」

 勇斗は、自分が学校に通っていた頃を思い出してみた。その頃も、何かにつけて駄々をこねるグループが一定数いた。そして、その連中に何か別の策があるのかと聞いてみれば、別に具体的な案など無いのが定番だった。

「良いだすですか? クロヅカ二等兵? 戦争なんてものは、単純明快に二極的な思想争いなどでなないのだすです。そこには人の数だけ積み重なったあらゆるベクトルが交差されているだすです。それを見出せないのでは、ただ誰かの操り人形と化してしまうだすです!」

「な、なるほど、すごいですね。凄いためになりました! さすがはエセンシス軍曹ですね!」

 勇斗が声を張り上げて感心すると、

「まあ、今まで言ってきたことは、全部背骨折りさんの受け売りなんだすですけどね……」

「あらら……」



 

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