神々の旗印72

※※※



 今回、彼ら正太郎の部隊に下された作戦指令は、第五寄留に程近いポイントに集結している凶獣ヴェロンなどの巣穴の情報収集および、それに伴う殲滅行為である。

 これはなんともざっくりとした指令ではあるが、作戦本部としても凶獣たちの生態がまだまだ謎が多い上に、今回の未曽有の大強襲を鑑みれば、そういった雲をつかむような内容を下すのも致し方ないと言った部分があった。

 そこで正太郎は、

「なるほど……そっちの要求は了解したぜ。だけど、そっちがそう来るなら、我々羽間小隊としては、これからずっと遊撃偵察部隊として自由に動かせて頂きますよ。なぜなら、あんたら参謀本部のお歴々も分かっちゃいるとは思うが、敵の数や内情さえも全く分からねえまま敵さんの中に突っ込むのは単なる命と物資の無駄遣いでしかねえからな。それでも、それ以上の無茶な作戦要求をしようてっんなら、それはそれで俺は受けて立つぜ。その代わり、この俺が今まで見て来て集めてきた情報が、アンタらに一切伝わらなくなるってだけの話だ。確かに俺ァ今、このペルゼデール軍に厄介になっている身だ。だがよ、これだけは断言しておく。この俺がこの軍に厄介になろうと決めた目的は人類の生き残りの為だ。それ以外の何物でもねえ。アンタらのこの俺に対する私怨だとか、くだらねえサル山のボス争いだとかには一切興味がねえ。それだけは覚えといてくれ。まあ、アンタらが、それが気に入らねえってんなら、ここで俺を煮るなり焼くなりどうにでもするがいいぜ。そう、やれるもんならな……」

 と、そんな感じで彼は肝の据わった睨みを利かし、大部隊のお偉方が集う作戦会議場にて大見得を切ったのだと言う。

 無論、そんな彼に対して誰も何も言い返せなかったのは言うまでもない。

 そして、正太郎のここまでの功績をよそに、もし軍法会議や国家反逆罪などの罪をでっち上げでもすれば、それこそ兵士の士気にかかわり軍内部も混乱する。まして、ここで彼と大捕り物でも始まれば、それこそこの方面軍大部隊の一大事である。

 彼ら、正太郎を陰から取り巻く陰謀家たちは、策士、策に溺れたのであった。

 当たり前の話だが、この会議内で正太郎の存在を快く思わない者が過半数を占めていた。そんな閣僚級の将校や士官たちは、元々ヴェルデムンド新政府軍に所属していた者たちで構成されている。そして、それに追随する陰謀家たちも、率直に言えば彼の功績を嫉む者たちで構成されている。

 どちらにせよ、そう言った一派が、今回の正太郎らを事実上追いやるために、死地となることが予想される場所に赴かせる策を参謀本部に進言していたのだ。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る