神々の旗印53

 

 そんな信じられぬ光景に慌てふためき、四人は逃げようとするが、

「か、体が……、体が動かない……!!」

 まるで腰を抜かしたように、地面に押し付けられてしまう。

「磁力だ……。我々の身体ですら抑え込めるほどの磁力のようなものが……この場所に発生しているんだ……!!」

 彼らの持っていた端末や計器類は一気にバグを起こした。そしてそれらは一瞬にして全てがシャットダウンされる。体の自由の利かぬ彼らは、次第に寄り集まった機械の群れに挟み込まれ、どんどん機械の部品らと一体になってしまう。

「う、ううう、ぐううう……!!」

 彼らはもう自由に言葉も発せられなかった。ただ出せるのは、悲鳴にも似た喘ぎ声のみ。すると、その遠のく意識の向こう側からこんな呪われた言葉が耳元まで舞い込んで来た。

「ニンゲンナド、スベテシネバヨイ……。ジンルイナド、全テ、ワタシノヨウニ、スベテ機械ニナッテシマエバヨイ、ノニ……。タスケテ……ユウト……」




 その頃、正太郎は、作戦立案の大詰めを迎えていた。それと同時に、今回の作戦に駆り出すメンバーの選出を考えあぐねていた。

「まったくよう、頼りにしていたイーアンがあの状態じゃあ、あんな無謀な指令の作戦の立てようがねえじゃねえか……。とは言え、イーアンのあの病に侵されたボロボロの身体じゃあ、あんな重症を負わなくたって昔みてえなわけにはいかなかったかもしれねえ。んったく……本当に水臭せえのはアイツの方じゃねえか……」

 彼は一人デスクに頭を抱えつつ深いため息をく。

 彼ら〝自然派〟と呼ばれる元反政府ゲリラ軍の面々は、大抵自分の身体能力にそれなりの自信がある者ばかりである。もしくは、より頭脳が明晰であるという特徴を持つ。

 それだけに、その可能性をどれだけ自分で引き出せるかというポジティブな思考によってアイデンティティが確立されているのも確かだった。

 しかし、その代償は、年月と共に地味にやって来る。それは、病気や怪我、そして何より老いによる古来からの身体的制限との戦いである。

 ヴェルデムンドの背骨折りなどと周囲から仄めかされている羽間正太郎ですら、日頃から老いによる身体的劣化は感じていないわけではない。だが、その身体的劣化という不可逆的な難題があるからこそ、彼らは地道な鍛錬を怠らず、そしてそれに対抗するための知恵を試すのだ。

 そして彼は、そうすることに因って、未来への新しい思考が広がるものだと信じている。この弱肉強食が全ての前提にある野蛮なヴェルデムンドの世界で、この先何があるか分からぬとも自らの力で明日を生き抜こうと考えているのだ。

「俺ァ、五年前のあの時よりも、ほんの僅かだが身体能力が落ちたことは感じている。この目も、耳も、腕の力だって数年前の方が上だ。だけどよ、その代わりと言っちゃあなんだが、少しだけ前より知恵も回るようになった。前より視界も広く感じられるようになった。自分以外の人の心も手に取るように解かるようになって来た。そして何よりも……」

 彼は、あのエナ・リックバルトの言葉を思い出す。

「あなたはインターフェーサーなのよ」

 という彼女の役割論を基にした言葉だ。

「そうだよな、エナ……。俺ァ、どっちかって言うと天涯孤独の風来坊のようでいて、そうじゃねえってわけだよな。お前のように甘えん坊のお節介焼きに気に入られたりするぐれえだからな……。それだけに、アイツら二人を放って置くことが出来なくなっちまったってわけだ。まあ仕方がねえ。今回はアイツらを五人の中に組んでやるとするか。それでいいんだよな、エナ……」


  


 

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