神々の旗印㉗
「よし、いいだろう。本来の戦場なら、これでジ・エンドってなところだが、これは訓練だ。今回はそうならないためにするための余興だ。お前の気力が続く限り、俺様はいくらでも付き合ってやるぜ」
ごま塩髭のイーアンはニヤリと笑みを浮かべると、両腕の特殊警棒を水平に構えた。じっと動かないその姿勢にさらに不気味さが増す。
勇斗はぶるぶると首を左右に振り、深く息を吸い込んで、ぐらついた感覚を抑え込む。そして、フェイズワーカーをゆっくりと立て直し、再び盾を前面に押し立てる。
「二度同じ手を仕掛けて来られるほど、実戦は甘くねえぜ、ミスター?」
「や、やってみなくちゃ分からないですよ、曹長!!」
言葉を放つや、勇斗は再度同じ攻撃を仕掛けようとした。だが、今回は少し違う。初手を仕掛けたと同時に、イーアンの機体がどの方向へかわすのかを予期して二手目で仕留めようと言うのだ。
だが、案の定、
「甘い! 甘いぜ!」
イーアンは言うや、機体を勇斗よりも早いタイミングで突きをかましてきた。驚いた勇斗は、
「グッ……!!」
衝突する間合いがほんの少しだけイーアンが勝っていた。ゆえに、盾もろとも機体全体が後方に弾かれてしまう。そして、
「あっ……!!」
勇斗が悲痛な声を上げたと同時に、イーアンの特殊警棒の先端が、彼のコックピットの直前で制止していた。
「そら、ミスター。これで俺の二連勝だな。要は、物と物とがぶち当たるタイミングの問題だ。このタイミングが機体動作の次の手の雌雄を決する。決め手は互いの持っているポテンシャルだけじゃねえ。その最大効果が表れるタイミングが重要なんだ」
「は、はい……」
勇斗はまたしても一瞬にして完膚なきまでに打ちのめされてしまった。
ペルゼデール軍の隊長の役目を背負っていた頃に、どれだけセシル・セウウェルに鍛え上げられたであろう。どれだけ腕を上げられたであろう。
しかし、この目の前の男は格段にその上を行く。別格だ。正に雲の上の存在――。
(つ、強い……。この俺が二手、三手目ですら打たせてもらえないなんて……。イーアン曹長の体の中には、もうどれだけ戦いの刻印が刷り込まれていると言うんだ……?)
勇斗はかつての師であるセシル・セウウェルに教わっていた。戦いは、極限になればなるほど頭で考えるものではないと。
そこで生き残るため、勝ち残るためには、考える以前に
「さあ、どうする、ミスター? まだやる気は落ちちゃいねえか?」
「と、当然、当然ですよ、曹長!!」
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