神々の旗印㉘



 勇斗の体は、ジェリー・アトキンスのタフな体でなければ、もう限界を超えていたところだった。だが、この身体はどんなに打ちのめされても、摩訶不思議なぐらいに回復が早い。

(早雲にぶちのめされた時もそうだったけど、やっぱりこのジェリー隊長の体は何か変だ。だけど、今はこの力が有難い……)

 そしてもう一つ、勇斗が感じているところがあった。

 どうやら黒塚勇斗本人であった時よりも視界が広く、相手の動きも少しばかり止まったように見える時があるのだ。

 よく、武術の達人やトップアスリートなどがそう言ったことを話しているところを勇斗は何かのメディアで見聞きしたことがある。それが今現在、勇斗の目の前……いや、勇斗本人の感覚で起きているのではないかと思われるのだ。

(確かにイーアン曹長の攻撃は凄まじかった。ほとんど一瞬の出来事だった。だけど、不思議なことにそれが見えていないわけじゃない。キチンと何が起こったのか、隅から隅まで頭の中に入っている。頭の中で何度も記憶が反芻はんすうされている。ということは、これからどうすればいいかを考えればいいだけなんだ……)

 勇斗は、これが人体の中身を移植された効果なのだろうと感心した。これがあの異常な博士の狙いなのかもしれないと感心した。体を乗り換えただけで、こんなにも世界が変わるなどと彼は思いもよらなかったのだ。

「さあ、どうした、ミスター? 威勢が良いのは口だけか?」

「そんなことはありませんよ、曹長! 俺だって……俺だって、アンタと同じ人間なんだ!!」

 勇斗は再度飛び出した。

 今度は、以前にイーアンから受けたアドバイスを念頭に置いて、自分の機体の攻撃威力の最大値を勘で予測した。

 勇斗は今まで、そういった予測は全てサポート人工知能である早雲に任せきりであった。それだけに、どの位置が最大適性値であるかなど知る由もない。

 だが、これはイーアン曹長がそれを見越して行っている訓練だということを、何となくだが理解出来ていた。

「ようやく気付いたようだな、ミスター!! 無いものを得る。今までに無い感覚を得た上で、それを研ぎ澄ます。それがこの俺たちのチームの醍醐味よう!!」




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