神々の旗印㉒


 正太郎が、その黒山の人だかりの騒ぎに目をひん剥いていると、

「これは少佐殿ではありませんか!」

 と、横から声を掛けて来る者があった。痩せこけた体に白髭が特徴の好好爺こうこうやといった感じの小柄な軍人である。

「あ、ああ、アンタは確か、第七整備部隊の七尾隊長でしたよね……?」

 正太郎は、その人物を見下ろしながら応えた。

 その男の名は、シチリット・ジェームス・七尾。このペルゼデール軍所属の技術大尉である。さらに、この第五寄留西側方面大隊所属の整備班長でもある。

「おお、これはこれは。流石はヴェルデムンドの背骨折りとまで言われたお方だ。きちんと顔と名前を覚えていてくださったか」

「え、ええ。まあ……」

「ほう。しかし、あの司令部のお偉方が一堂に会したミーティングの中、よく一度だけの紹介で覚えられましたな」

「いや、まあ……、そりゃあ逆ってものですぜ、大尉。外様部隊の俺たちにとって、アンタのような人に俺たちのを覚えてもらった方が何かと都合が良いんでね。これも商人上がりの性分ってものさ」

「ハッハッハ、なるほど、それは納得ですな、羽間少佐殿。流石は戦略家とうたっておられるだけあって、人の何たるかを解かっておられる」

「いやあ、それは当たり前田の何とかですよ大尉。どんなに機械の世の中になったって、俺たちゃ最終的に感情に左右される。その感情を少しでもコントロール出来なければ、どんな窮地に立ったところで誰も動きやしねえし、誰も命を張って人を守ることすら出来ねえ。つまるところ、善きにつけ悪しきにつけ、最終的に味付けの決め手は感情のスパイスってなもんでさあね」

「ふむふむ。それは分からぬ話ではありませんな。うちの部隊とて、機械を相手に悪戦苦闘しておりますが、感情のバランスを崩した者は正確さを欠きますからな。さらに言えば、技術だけ持っていてもそれを使いこなすことは出来ませんからな」

「ええ、そういうことです、大尉」

 正太郎は、このやり取りで、目の前の大尉が彼の見立てた通りの人物であることが窺えた。何とも肝が据わっっていて信頼が置ける。

 とは言ったものの、

「……んでもって、それはさておき、この騒ぎは何なんですかね、大尉?」

 どうやらこちらの好好爺は立ち話がお好きらしい。この大騒ぎの中ですら、全く構いない様子で延々と人生論議をし続けてしまいそうな雰囲気だ。

「おっと、これはこれは大変失礼致しました、少佐殿。話が脱線して申し訳ありません。この騒ぎはと言うとですね、実は、あなたのお連れ様たちに因るものなのです」

「え? な、なんだって!?」



 

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