神々の旗印⑨


 無論、人間以外のフェイズウォーカーやドールと言った睡眠調整の勝手が利く者らは別である。しかし、いくら訓練を受けた兵士たちと言えども、生身のネイチャーにしろ、半分が機械の体に入れ替わったミックスにしろ、生来の脳機能は同じであるため、何はなくとも睡眠だけは必要不可欠なのだ。

 まして、今回の人類の存亡さえ危ぶまれた攻防に従事したとなれば、全ての将校兵士に至っても疲弊のほどは並大抵のものではない。

 彼らは、他の元反政府ゲリラの仲間たちと共に、五年前の敵味方の垣根も超えた状態で長くて短い夜を明かしたのである。


 


 その次の朝、正太郎はまだ明け方だと言うのに、いつになく早々と目が覚めてしまった。

 彼は妙に寝静まった軍事キャンプの見張りにそっと挨拶をすると、フェイズウォーカーたちがずらりと立ち並ぶ格納エリアへと足を運んだ。

「へへっ、こりゃあ楽しいねえ。これじゃあ、フェイズウォーカーの万国博覧会みてえだ。こっちの列にゃあ、これまた最新鋭のクイーンオウルから、年代もんの旧型白蓮びゃくれんの類いまでずらりとそろっていやがる。しかし、これまた派手にやられたもんだね、こりゃあ……。見ていて痛々しいや」

 静かなパイロット専用のエリアを離れると、格納エリアは休憩もままならない整備兵たちが目を爛々と輝かせ働いている。

 昨日起きた肉食系植物の侵攻は、このヴェルデムンドへの移住がされて以来、史上最も激しいものであった。

 一時は、この世界に住む人類自体が根絶やしにされてしまうのではないかと言う雰囲気さえ醸し出されていたぐらいなのだ。このように、どんなにボロボロになって帰って来たとしても、整備兵たちは死力を尽くして彼らフェイズウォーカーの整備に当たらなければならない。

 しかし、何も整備をするのは人間の類いのみが行うものではない。格納ハンガー型のオートチェックロボットや、整備専用のアンドロイド、そしてフェイズウォーカーに搭載されている人工知能のみのケアを行うメディカルフェーサーと呼ばれる卵型の体に車が付いただけの専用ロボットも働きづめだった。

 それを見ていると、正太郎も居ても立っても居られなくなり、

「いっちょ、俺も奴の面倒でも見てやるか……」

 と、自分の愛機の姿を探すのである。


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