神々の旗印⑧


 食い入って力説するエセンシスの表情は、元々大人しい彼には珍しいぐらいの熱気があふれていた。

 正太郎は、そんなエセンシスに気圧けおされたまま冷や汗を流し、

「あ、ああ……分かったぜ。だけど俺ァ、別にそんなつもりじゃなかったんだがなあ……」

 と、頬を指で掻くと、

「まあまあ、エセンシス。そのぐれえにしておけや。なにせ今夜は、再開と勝利を祝しての乾杯だ。そういう話はまたにしようや」

 イーアンが苦笑いをしつつ、背後からエセンシスの肩を軽く抑える。

「いいや、イーアンさん。ここは言わせてもらうだすです! 背骨折りさん! あんさんは、まだアルセーユさんが死んでしまったのが、自分の責任だと思っているだすですか!? それを本気で思っているのなら、それはとんでも見当違いのこんこんちきで、勘違いも甚だしいのだすです!! 彼女が死んでしまった原因は……」

「お、おい! エセンシス!! いい加減にしろ!!」

「何をいい加減にするだすですか、イーアンさん!? だって……」

「そうだぞ、エセンシス!! いい加減に黙るのはお前でゲスよ!!」

 岩男のマドセードが野太い声で言葉をさえぎった。彼は、エセンシスの兄として高圧的に眼光を光らせ、

「もうそれ以上言うなでゲス。これ以上つまらねえことを言ったら、お前さんを引っ叩いてやるでゲス……」

 マドセードは唸るように、そこで言葉を切った。

 すると、今まで熱くなっていたエセンシスも、

「う、うん。ご、ごめんよ、あんちゃん……」

 と、急にしおらしくなって黙り込む。

「すまねえな、背骨折り……。こいつら、久しぶりの戦場できっとまだ気分が舞い上がっちまっているんだ。なにせ、アンタも俺たちも生粋のネイチャーだからな。アドレナなんちゃらの分泌もいつも以上に抑えきれねえと来てやがる……。五年前ならいざ知らず、どうやら流石の俺たちも焼きが回っちまったみてえだな……」

 ごま塩髭のイーアンがそう言って、またらしくない苦笑いを浮かべるのである。すると正太郎は、

「なあに、なにも気にしちゃいねえぜ、イーアン。あれから五年経ったところで、お前たちの腕は今日の戦闘結果が保証済みだ。焼きが回っただなんて、そんな寂しいことを口にするもんじゃねえぜ」

「アハハ、そりゃ、現役続行中の背骨折り様のお墨付きとなりゃ、こりゃあ心強い。だが、俺たちも、もういい年齢としだ。アンタよりか一回りも年食っちまった俺たちには、この森の中のキャンプは結構堪えるってもんだ。祝杯はここで切り上げて、そろそろ夢見の時間と洒落込もうじゃねえか?」

「ああそうだな、イーアン。お前らも久しぶりの実戦で疲れただろうから、ここでお開きにしよう。あっちの正規軍の連中なんか、もう見張り以外はベッドの中で女の膝枕の夢見の真っ最中だろうからな」


 

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