神々の旗印②
そしてマリダには、ここに来て女王としての役目を辞退するわけにはいかない理由があった。もし、こんな未曽有の非常事態にあってそのような弱音を吐いてしまえば、ここまで築き上げた人間とアンドロイドとの共生の道も絶たれてしまうやもしれぬからだ。
(ああ……、こんな時に、あの方が近くにいてくれれば……)
そんな考えすらも口に出来ない状況に、彼女は言い知れぬ不安と疲弊だけが募っていた。
そこに、
「マリダ陛下、朗報で御座います!! 第五寄留〝ノイマンブリッジ〟に於いて、全滅止む無しと思われた我が軍がひとところに持ち直し、侵攻を防いでいるとの情報が入りました!」
と、突然の触れ込みである。この四面楚歌にも近い状況に、一筋の光が舞い込んで来た瞬間だった。
「そ、それは確かな事なのですね? 敵性勢力のダミー情報なのでは御座いませんね?」
マリダのこの対応は、やむを得ぬことである。彼女は、ここのところある理由があって疑心暗鬼になっているのだ。
なにせ、この肉食系植物の侵攻があった以前には、三次元ネットワーク内に途轍もなく悪質な情報テロ活動が頻発していたからだ。
その中には、あの羽間正太郎の遺体が見つけられただの、鳴子沢大膳らしき人物の亡骸が発見されただのと、有りもしない現実の情報も紛れ込んでいたのだという。
しかし、有りもしないとは言っても、それが事実でないと確認できたのは後の話である。どんなにマリダが優秀なアンドロイドと言っても、その情報が舞い込んで来た時は胸が締め付けられるほどの痛みを感じている。
今考えれば、その情報テロですらも、今回の肉食系植物の侵攻の布石であったのかもしれない。戦略的な物の考えからすれば、相手の動揺や混乱を招く情報を流し込むのは常套手段であるからだ。
とすれば、今回の肉食系植物の侵攻の背後には、何者かの影が見え隠れしていることは確かだった。
マリダは、その情報将校に飛びつくように問いかける。
「一体どうやって……、いえ、一体どのようにして持ち直したのでしょうか?」
「は、はい! マリダ陛下! どうもこの激しい戦闘で、寄留地同士の三次元ネットワークの状態が途切れ途切れになってしまって、詳細は把握できていないのですが……」
「ええ」
「どうやら、黒い機体を中心とした精鋭部隊がどこからか現れて、我ら正規軍と共同戦線を張っている模様です!」
「何ですって!? 黒い機体!? そ、それは、まさか……!?」
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