最十三章【神々の旗印】

神々の旗印①


 ※※※


 その一方で風雲急を告げたのは、かの巨大国家〝ペルゼデール・ネイション〟である。

 なんと、鳴子沢大膳が姿をくらましたその二カ月後に、今の今まで鳴りを潜めていた肉食系植物たちが、この世界の方々に渡る寄留地に進軍を開始したのである。

「マリダ女王陛下!! 第七寄留北部第十五防衛部隊全滅、そして第九寄留山間遊撃一個中隊が撃破されたとの報告が入りました! 我が軍は、未だ空からの攻撃に耐えうるだけの装備も機能も有していないだけに、このままでは全滅もあり得るのではないかと、軍参謀本部からの見解が示されております!」

「続いてマリダ陛下!! 我々軍人同様、国民もこぞって肉食系植物の撃退に努めておりますが、今回の侵攻は物の数が予測の域を超えております! 空からのヴェロンだけならともかく、対空防御を主とした軍に対し、それで手薄になった地上から、ローゼンデビルやグレイピーナッツといった下等な肉食系が攻め込んできている状態です! 戦闘に不向きな女性や子供は避難させておりますが、どうにも今のままでは死傷者が増すばかりです!」

 女王の位置に君臨したマリダ・ミル・クラルインの人工知能脳内には、引っ切り無しに三次元ネットワーク通信の報告が飛び交っていた。

 同時多発的に、このような肉食系植物の侵攻を許してしまったのでは、彼女一人がどんなに優秀であったとしてもこなし切れるものではない。

 今回の敵の進軍に気付けなかったのは、あの第十五寄留ブラフマデージャなどで起きた肉食系植物の擬態化によるものである。どんなに生体反応センサーが発達したとしても、植物系の生体反応だけを判別することは不可能なのだ。なぜなら、このヴェルデムンドと呼ばれる地上自体が、多種多様な植物によって覆われた楽園だからである。

 何らかの力によって知能を有してしまった肉食系植物らは、その地の利を生かし、我ら人類に対しての戦略を立ててきたのだと見てよい。

 確かに、彼女の計算上では、ペルゼデール・ネイション軍の力をもってすれば、この進軍を一掃することも可能だが、その被害たるや尋常ならざるものになるであろう。

 そして、その疲弊した軍や国家に対し、第二、第三の進軍があったとすれば、それは国家ならずしも人類の滅亡を意味する。

 このような状況に対し、マリダは心底疲弊せざるを得なかった。

「わたくしに、このような事態が予測出来なかったばかりに……。しかし、ここで落ち込んでばかりはいられません。それがわたくしの役目なのですから……」



 

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