虹色の人類117


 その瞬間から、正太郎と敵刺客との間に、様々な葛藤と戦略のやり取りが生じていた。

(そういうことか……。どうやら敵さんも、手を出尽くしちまったみてえだな。きっと、さっきの連続攻撃でエナと俺を完璧に仕留められると高を括っていたんだろう。……てえことはよ。俺の見立てじゃあ、敵さんの持っている武器は、いいところレーザーナイフがあって一、二本てなところだ。つまり、それを投げつけちまえば、奴は丸腰になる。だからと言って、こっちがそれを全部防ぎ切れる確証はねえし、こっちから攻め立てればエナが無防備になっちまう……。そう、お互いにどん詰まり状態ってなわけだな……)

 正太郎はこの瞬間、敵方の刺客の力量を恐れるばかりか、妙な親近感を覚えている。なぜなら、互いに同等、いやそれ以上の卓越した感覚のやり取りを感じさせられていたからだ。

 今の今まで、そのような感覚のやり取りが出来たのは、あの崇高なる師、ゲネック・アルサンダールを置いて他に居ない。

 少なからず、今現在に至るまで戦い合って来た強敵は、心、技、体、そして智のどれか一つに極力秀でていた者が主体であった。がしかし、このように完璧なまでに均整の取れた敵は初めてである。

 さらに、この刺客にはどこか研ぎ澄まされた刀のような野生の匂いが漂って来ている。それは、機械や人工培養ではあり得ない、生まれ持った資質が醸し出す遺伝的な匂いのようなものなのだ。

「こ、こいつはヤバいぜ……。こいつはよ……」

 彼は言いつつ、思わず口角が緩んでいた。

 体中が妙に打ち震え、無性に腹の奥底が熱くなって来るのが分かった。そして呼吸が次第に大きくなり、目が爛々と輝きを増して来る。この坑道の薄暗い空間が、さも全て見通せているかのように情報が入って来る。

「そうか、解かるぜ。そう、お前の居る場所がよ。そして、お前がこっちをじっと見つめているその姿もよ」

 ここに起きている彼のこの状態こそ、正に黄金の円月輪の秘術〝三心映操の法術〟である。羽間正太郎の十八番とも言える卓越した感覚技である。

 だがしかし……

「へへっ、何だよ。テメぇもどうやら、俺と同じ感覚の持ち主ってわけかい? そうだ、伝わって来るぜ。テメぇが感じているその空気の流れを……」



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