虹色の人類116


 ※※※



 羽間正太郎は、今まさに、を思い出していた。あの言葉とは、彼の師、ゲネック・アルサンダールに切々と叩き込まれたあの言葉のことだ。

「あなたが世界を滅ぼしたいのなら……」

 その言葉の真意とは、相対した敵の真意を逆方向から読み取り、自らの考え得る解決法を見出す為のものである。

 だが、今現在、彼が置かれた状況とは、とても余裕を持って何らかの手立てを思案していられる場面ではない。なにせ、敵方の刺客の力量は計り知れないのだ。

 さらに、エナ・リックバルトの意識プログラムの移送も完了していない。まして、正太郎自身も先程のやり取りでかなりの手負いの状況なのだ。

 彼は、両手にありったけのレーザーナイフをより一層これでもかと言うぐらいに押し広げる。まるでそれが暗闇の中に視覚的に轟く光の翼であるかのように。

 その姿は、野生の孔雀や鶴と言った大柄な鳥が、数多の天敵と対峙するときのような大迫力である。

 だがしかし、

(へへっ、この俺がこんなハッタリかましたところで、あの敵さんには全てを見抜かれちまっているんだろうな。こっち側に何も手立てがねえってことをな。とは言ってもよ。今この俺が出せるのは、完全無欠のジョーカーどころかスペードの4程度で手一杯だ……)

 効力の低いカードをいくら山のように所持していても、それは全て烏合の衆もいいところ。所詮は十メートル級の大筒相手に15センチ程度の短刀片手に突撃するぐらい力の差は歴然である。

 正太郎は口を一文字に閉じたまま、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 この手にしているレーザーナイフとて、敵の刺客が投げつけてきた物だけに、どれほどの威力があり、どれほどの間光り続けてくれるのか知れたものではない。今ここでマシンガンのような連続攻撃でも放たれでもすれば、それこそ一巻の終わりを意味する。

 だがしかし――

 正太郎がいくら待てど暮らせど、敵方の刺客は次の手を打って来なかった。こちら側が圧倒的に不利であるにもかかわらず、何も仕掛けて来ないのだ。

(ど、どういうことなんだ……!? 一体なぜ敵さんは、この機の乗じて一気に来ねえんだ……!?)

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