虹色の人類106



 言うや、目の前の玉虫色をした男は、その右腕を大膳の喉元に押しやった。

 大膳はいきなりの事に驚愕し、ビクリと身構えて体制を整えようとしたが、

「だから焦るでないと言っておろうが。私は貴様を傷つける意志など毛頭ない。ただ、ここに触れねばならぬ……があるだけなのだ」

 触れねばならぬ……――。大膳には、その後の言葉がハッキリと聞き取れなかった。それは日本語でもその他の国の言語などのようでもない。ただ、彼の今までの概念に無い何かを表現しているようなのだ。

 そして、そのまま玉虫色の男の右腕が大膳の喉元にまで差し掛かった時、

「むっ……、なんだと!?」

 彼の焦燥の色に染まるそっ面の下を、玉虫色の右腕だけが空間の中にうずもれて行くのである。

「だから心配など要らぬ。たまたまこの空間に……があったのだ。貴様の体には何一つ影響などない。……とは言え、貴様ら第六世代人類には到底死んでもこの空間の先が何であるかなどは認識など出来ぬだろうがな。それが我々と貴様らの生まれつきの違いというわけだ。そして、絶対にこの……には触れるでないぞ。貴様らの次元の生き物がこれに触れてしまえば、分子崩壊を起こしてしまう可能性がある」

「な、なんだと……!?」

 玉虫色の男は、いきなりとんでもないことを平然と言ってのける。

 しかし、この時点での玉虫色の男の表情などは読み取れるものではない。なにせ、この男の体は大膳には虹色にヌメヌメと光り輝いているようにしか見えないからだ。

 そしてしばらく玉虫色の男が、差し入れた空間の中をグリグリと手探り続けていると、

「おお、あったあった」

 とばかりに、手のひら大の何かを掴み出した。

「これよ、これ。これが……なのだ」

 大膳には未だにこれが、の後の言葉の発音が全く聞き取れない。だが、玉虫色の男の手にした物だけはハッキリと窺える。

「そ、それは何なのだ?」

「これか? これは貴様たちの世界で言うところの電灯のようなものだ。この空間を貴様にでも視覚化出来るように映し出すための明かりを照らす道具だと言えば良いだろう」

「電灯だと……? た、たかが照明器具で分子崩壊を起こしてしまうのか……?」

「いかにも」

 余りにも意味不明な内容を繰り出されるものだから、大膳は呆気にとられるしかない。しかし、

「ふうむ。やはりなかなかこの次元人には理解はしてもらえんようだな。だが、それも仕方あるまい。何せ今から数百万年以上前の人類とて似たようなものであったからな」

「な、なにィ!? 二百万年以上前の人類だと!?」



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