虹色の人類107


「そうだ。二百万年以上前のことだ。しかし、それがどうかしたのか?」

 玉虫色の男は、何ともあっけらかんとした言い様で答える。

「そ、それがどうかしたのかだと!? しかし、そこまで素っ気なく言われてしまうと、私もどう返したらいいのか言葉が見つからん。……とは言えだな、我々からすればそれは途方もない年月を意味するものでな。これが驚かないわけにはいかんのだ」

 大膳は困惑しつつ、爪先で頬を掻く。

「はっはっは。それはすまなかった。なにせ、我々五次元人には、貴様たちが言うところの寿命と言う概念がない。それゆえ、二百万年前だろうが百億万年前だろうが、要は何も変わりはしないのだ。全ては昨日起きた出来事のように思えてならんのだからな」

「な、なんだと!? ふ、ふうむ……。何とも貴様ら虹色の人類にはつくづく驚かされる……。つまり、貴様ら五次元人とやらは、時間と言う概念も持っておらん場所に存在しているというのか?」

「あ、ああ……まあ、そんなところだな。少し意味合いは違うが、そんなところだ」

「だが、これはどう説明する? 貴様らとて、私たちの世界で幾人も死んでおるではないか。それはどう説明するのだ?」

「ああ、それは何も難しいことではない。我々五次元人とて、貴様たちの次元世界に飛び込んでしまえば、それと同条件で寿命も来れば、傷ついて死んでしまうこともある。だが、我々は貴様らのように有性生殖によって子孫を育むものではない。各々にその意思の充実が来れば、自然と分裂を起こすようになっている。それが複製となって代々記憶をも受け継がれるよって、時の流れの感覚も永遠に感じる様になるのだ」

「つ、つまり……、時間の概念がないのではなく、あまりに長い時間を生き永らえている状態と同じだから、我々と違って時間の概念に麻痺してしまっていると言うわけなのだな?」

「まあ、そんなところだ。我々五次元世界に生きる存在の殆どは、そうやって種の存続を図る生態で賄われている。まあ、それも我々が知る上での知識の範疇でしかないがな」

「ふ、ふむ。そりはつまり、貴様たち以外の他にも未知の生命体が存在する可能性があるというわけだな?」

「無論だ。我々は貴様らの概念で言うところの〝神〟などではない。単に、その世界に偶然存在する一生物に過ぎん。例えそれが、必然的な意味で存在するのだと仮定しても、全く意味合いは同じであって、あの世界の一部を構成する物に過ぎんのだ。我々は貴様らのように傲慢ではない」

「傲慢?」

「そうだ。貴様ら歴代の人類は、この……の光に身を晒すことに因って特別な進化を遂げる特性があることが過去の経験上で分かった。……しかし、それによって、貴様ら歴代の人類は、この次元世界の均衡を崩してしまったのだ!」

「次元世界の均衡……だと?」


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