虹色の人類102


 大膳は言葉を失った。

 確かに彼は、旧ヴェルデムンド新政府が行っていた推進計画に賛同していなかった。だが、表向きには彼は政府の高官として従事していた経歴がある。なぜならそれは、実情を知るために潜入しなければならなかったからである。その第一の協力者であるエルフレッド・ゲオルグ博士も同様である。

 彼らの目的は、若い時分にゲオルグ博士らの所属する調査団体〝サージリパージ社〟と、その調査対象である〝ペルゼデール兄弟団〟らとの邂逅によって軌道修正された。

 その主旨とは、虹色の人類という別種の人類の調査、そしてその対象の目的を探ることであった。

 故に、彼は本意ではないにしろ自らの目的の為にあえてヒューマンチューニング手術を施して旧ヴェルデムンド新政府の高官の位置に上り詰める必要があったのだ。

 だが、今の拘束衣の大膳の話によると、それも徒労であったことが分かった。つまり彼も、虹色の人類によって彼らの手のひらの上で踊らされていた一人だったからである。

(ふうむ……。これで羽間君の言ってたことがまた一つ実証されてしまった……。人類全てが一色に染まってしまえば、それが滅びの要因となってしまうという彼の主張……。道理では理解出来ていたが、こうも簡単に実証されてしまうとは……)

 羽間正太郎の主張や行動は、時に常識の範囲内で考える人々からは無理無謀なものに見えてしまうことがある。

 だが、彼の考えは日常的平穏の思考にあらずなのである。つまり、非日常的な異常事態に対応するための考えに特化しているということなのだ。

 大膳は改めて思った。

(そうか……、全てを平均化するリスクというのは、このことを意味するのだ……)

 ということを。

 

 彼は、拘束衣の大膳に案内されるまま、基地内の奥へと足を運んだ。

 途中、この内部で作業をする人々と幾度も顔を合わせたが、どの顔もどこかで見たことのある面々である。

 それもその筈で、彼らは全てがオリジナルな人格を有した人物ではない。どれも、どこかで虹色の人類によってコピーされた複製人類なのである。

 だが、それらは何の問題を見せることもなく黙々とそれぞれに与えられている作業を続けている。

 中には、やはり全く同じ背格好、同じ顔をした者同士が集って何かを行う様子もうかがえた。これは、間違いなく大膳同様に虹色の人類のを受けて取り入れられたのだと考えられる。

「そんなにこの光景が物珍しいかね?」

 拘束衣の大膳は淡々と尋ねた。すると、本物の大膳はふと我に返るように、

「あ、ああ……」

 とだけ、気の抜けた答えをする。

「じきに慣れる。私も貴様の姿になって、貴様の考えの全てが理解出来るようになった。その考えにも慣れた。今や私は貴様の真の理解者になったのだ」

「う、ううむ……」





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