虹色の人類91
正太郎は、その後も警戒を怠ることなくナビゲーションシステムに誘われるがまま坑道の奥底へと駆け抜けて行った。
流石に敵方も正太郎の感性に恐れをなしたのか、得も言われぬ殺気を保ったまま仕掛けては来なかった。しかし、正太郎にはそれがどの理由にあるものかなど想像のつくものではない。
「チッ、これはちいとばかり骨が折れるってなもんだぜ……」
言うや、正太郎は一旦三方向からの攻撃を避けられる死角のある場所に身を隠す。と、ぐったりとしたままのエナを静かに床に寝かせて溜息をつく。
どう考えても彼は不利な立場に居る。敵方は、正太郎とエナの命を狙うことだけに集中すればよいが、当の正太郎は、慣れない坑道内を駆けずり回りながら、エナの容体に逐一気を配りつつ、敵方の攻撃から身を守らなければならないのだ。
おまけに武器の類いは、ホルスターに収められたM8000クーガーという自動拳銃に残弾が三発のみ。レーザーソードはとうにエネルギー切れを起こし、今や彼のお守りの意味すらなさないでいる。自分の身代わりに亡くなったアイシャの墓参りと称して立ち寄った場所だけに、十分な武器弾薬を用意してこなかったことが悔やまれる。
しかし、今現在、そんな不安に満ちた感情を微塵にも露わにするとこは出来ない。なぜなら、敵方の刺客は、どうやらこちら側と同様に非常に鼻の利く人間であることが窺われるからだ。
「どうしたよ、俺? 泣き言を口にするぐらいなら、先ずは生き抜けるための考えを示すんだ。時間が……、時間がもったいねえ……」
こうしている間にも、エナの脇腹からは多量の血液があふれ出している。彼女のトレードマークでもあるダボダボの迷彩服は半分以上が真っ赤に染まり、雪のように白い肌が一段と白みを増して行くのが見て取れるからだ。
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