虹色の人類68

 エナは追い打ちをかける様に言った。

「ほら、今までだって他の大型人工知能が反乱を起こしたりする事件なんて数限りなくあったじゃない? 世の中にはさあ、それって結局未遂に終わったり、あなたの様な敏感な人に阻止されちゃったりしてきたじゃない?」

「ああ……。いかに人工知能とは言ったって、所詮は人類と共存することで存在を保ち続けられている生き物みてえなことろがあるからな。反乱っていうか、少しでもおかしなところがあれば、人間だって馬鹿じゃねえ。それに気づいちまうってものさ」

「そう、それが問題なのよ。あたしたち、世の中をべようと必死に頑張っている人工知能側の人間にとってはね……」

「なんだと!?」

「人間なんて本当に愚かな存在よ。だって、そうでしょう? どんなにヒューマンチューニング手術を受けたところで、結局今の有り様だものね。何かある毎に人々はオロオロするばかりで、とどのつまりは自分の事ばかりを考えてしまう。そうよ、だって、それが人間という生き物の習性なんだもの。仕方ないわ。それに……」

「それに?」

「そう、あんなに苦労して発展してきた三次元ネットワークという技術だって、結局のことろ情報の共有を図るだけの道具なだけ。で、これも結局は個々の能力なんて一向に向上していないし、人類全体の底上げだって図れていない。というより、その道具を使って別の生き方を見出したというだけだもの。それを進化と言うには聞こえはいいけれど、進化をしたのは道具なだけであって、それによって人類が進化したわけじゃないじゃない? むしろ人間は退化し続けているようにしかあたしには見えないもの!」

 エナの主張は、あながち外れていない。それゆえに、この坑道内がまるで彼女の言葉に完全占拠されているかのようにピンと張りつめた。

「しかしな、エナ。俺はお前の言葉に全く賛同できねえ」

 正太郎は声のトーンを低めて言う。

「なぜよ? どうしてよ? そこんところ、ハッキリ言ってみて、ショウタロウ・ハザマ!! あたしはね、今の人類のままでは、あの虹色の人類に対抗するまでもなく消されてしまうことを危惧して言っているのよ!? ペルゼデール様はねえ、そんなあたしたち人類を救ってくれるために、こういった試練をお与えくださっているのよ!?」

「何言ってんだ、エナ!? お前、言っていることが無茶苦茶だぞ! どうかしてんじゃねえのか!? しっかりしろ!!」

「しっかりしなくちゃいけないのはあなたの方よ! きちんと前を見なさい! 人類は変わらなくちゃ対抗できないのよ、あの虹色の人類に! それをペルゼデール様がお救いになってくださるのよ! あたしたち人類が善き方向に導かれるように!」

「馬鹿な……!!」

 正太郎は、エナの言動に途轍もない矛盾と違和感を覚えていた。それは、あのノックス・フォリーのアマゾネスとまで呼ばれた賢い女の姿ではない。ここにいるのは論理性が破たんした思考を植え付けられた突拍子もない感情の塊であった。

 彼は反射的に腰のホルスターに手を伸ばした。さらに隠れていた岩陰からひょいと身を乗り出し、どうにか烈風七型の機体に取り付こうとした、その時――、

「ウグッ……!!」

 彼は、坑道の暗がりの中に、何ともおぞましい光景を見てしまった。



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