虹色の人類63

 とは言え、正太郎は烈風七型の機体の至るところを熟知している。どんなに操縦系を奪われたとて、外部にある起動解除スイッチのある場所を忘れることなどない。

「ていうかまあ……、あの桐野のオヤジの作った戦闘マシンだからな。起動解除スイッチって言ったって、そう易々とそれが出来る場所に付いちゃいねえんだがな……」

 当たり前の事ではあるが、この時代の人工知能マシンには、それ相応の起動解除装置が必ず組み込まれている。

 その理由は明白で、

『もし、万が一にでも、人工知能にバグ等の動作不備が生じた場合』

 に対応するためである。

 それは目の前に起きている戦闘マシンの暴走といったケースに留まらず、簡単な作業機器や、人間と共生しつつあるアンドロイドといった存在にすらその適用が義務付けられているのだ。

 だが、唯一その対象外であったのが、先の〝グリゴリの反乱〟でもあったように、人間にとってその道しるべを導き出す大型人工知能なのである。

 その理由たるや定かではないが、もし大型人工知能が何らかの反乱を起こしたとしたならば、その対処は起動解除スイッチといった原始的な装置では防ぎ切れないからだと言われている。

 さらに、大型人工知能にかかるエネルギー供給は莫大であるがために、起動スイッチをあつらえなくとも、それを止めてしまえば全ては解決すると高を括っていた感もある。

 しかし、グリゴリは、そのどちらの障害をも越えてエナと融合し、意識プログラムですら分散、寄生してここまで生き永らえてきたのだ。

 今のグリゴリの意識は、別の人物の補助脳に追いやられ、その高機能で高知能を誇った過去の姿を見る影もないが、その高いスペックの部分だけは、融合されたエナ・リックバルトの意識として引き継がれている。

 しかし、そのプログラムデータ容量が余りにも莫大なため、今のエナに取り込めた容量は左程多くはない。よって、彼女も引き継がれた高機能なスペック事態を使い切れないでいたのだ。

「解かるぜ、エナよ。お前はきっと、その莫大なデータを取り込める媒体として烈太郎……いや、烈風七型を選んだんだ。今の自分が自分自身としてなるべく落ち着ける居場所を求めるためにな……」



  

 

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