虹色の人類64


 正太郎は、エナが烈風七型を乗っ取った理由は、彼女の膨大な意識プログラムデータを居場所として確保するためなのだと読んでいた。だが、そのエナの意図するところは完全に誤算だったということだ。

 なぜなら、どんなに烈風七型の意識である烈太郎を眠りにつかせたとしても、エナの意識プログラムはブラックボックス化した烈風七型の中枢部分にアクセス出来ないからだ。

 いかに彼女の意識プログラムが高い機能を有していたとしても、その機能を活かし切れるまでの容量を確保できなければ全く意味を成すものではない。言わば、高い意識のどん詰まり状態なのだ。

「それでこんな単純な攻撃しか仕掛けられねえってわけだ。エナ、今のお前が烈風七型の機体にこだわり続けている限り、お前はちょっと有能なだけのただの女の子の力しか発揮できねえんだぞ。それを理解しろ! それが証拠に、お前にお供してきたクイーン・オウルが一機やられただけでも、お前の力はガタガタになっちまったじゃねえか!」

 正太郎は、彼の持論を基に彼女の行動パターンがそうであることを結論付けている。

 つまり、彼女が操る烈風七型の傍に連れ立ってきたフェイズウォーカー、クイーン・オウルですら、彼女の意識プログラムの一部を憑依させた〝居場所〟であったということだ。

 正太郎は、先ほどクイーン・オウル一体を葬ったことでそれに気づいたのだ。よって彼女の行動は一時的にバランスを失い、固く閉ざされたゲートに誤射をしてしまったというわけだ。

「エナよ、よく聞け! この俺の声は、烈風七型の高感度センサーを通してならよく聞こえる筈だ! このままお前がその機体を乗っ取っていたからって何のメリットもねえ! いや、消耗するだけデメリットが生まれ出ちまうだけだ! そうだ、何より賢く生まれついたお前なら、もうとっくの昔にそれに気づいている筈だ! 悪いことは言わねえ。早くそこから出て来るんだ!!」

 正太郎は、雨あられのように飛んでくる弾丸から身を潜ませて叫んだ。弾丸の弾く音によって、通常の人間の耳ならこの声は届かない。だが、彼を標的に狙いを定めている特殊収音センサーであれば、彼の言葉の一言一句すら聞き逃すことはない。

 するとその瞬間、ハタと銃撃がんだ。そして、

「ショウタロウ・ハザマ! もう遅いのよ! もう……」

 エナの悲痛な叫びが坑道内に木霊した。



 

 

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