虹色の人類62


 ※※※


 正太郎は、エナがやたら撃ちまくる20ミリ機銃の弾をけるので精一杯だった。

「チッ……! こんなことなら、どっかであの武器は使い切っておくんだった……」

 彼はそんな愚痴を吐き出しつつ、粉塵の舞い上がる坑道の中を追い詰められた野ウサギのように逃げまくる。

 烈風七型の機動はまだぎこちなかった。いくら天才少女の意識プログラムが操るとは言え、彼女は本来パイロットではない。今は研究職の身ではあるが、元々後方で作戦を練る軍師なのだ。

「世の中には完璧なんてありゃしねえ。そんな手前味噌なことがあってたまるか! なんでもかんでも完璧に出来るんだったら、もうとっくの昔にこの世の中は神様で埋め尽くされているはずだ!」

 正太郎は何とか逃げ惑いつつ、再び腰のホルスターからレーザーソードを引き抜いた。相変わらず烈風七型からの弾丸は止まない。しかし、ここで幾ばくかの光明が見えてきた。

「やはりエナはエナだ。後ろから人を操ることにかけては水際立っているが、こういった実戦にかけてはやはりド素人もいいところだ。ただ武器をぶっ放すだけが戦闘だと思い込んでいやがる……」

 おそらく彼女は、烈風七型の高感度センサーを利用して正太郎の居場所を特定しつつ、やたらめったら撃ちまくっているに違いない。だが、実戦ではどんなに高速度の計算機能を有していても、それだけでは敵は倒せるものではない。なぜなら、受け身の計算予測は微妙なタイムラグを生み、それによって余分な動きを生じさせてしまうからだ。

「これは将棋やチェスみてえな盤上のやり取りじゃねえ。ルールも条件も青天井の死に物狂いの世界なのよ!」

 エナの操る烈風七型は、先ほどから激しい機銃掃射を止めてはいない。だが、それと同時にその場から一ミリたりとも移動していないのだ。これは彼女の余裕のなさを示す確証であろう。

 どんなに正太郎が生身の姿を晒しているとはいえ、少なくとも人一人を死に追いやるには無理がある攻撃なのだ。

 なにせこの坑道はとにかく広い。短時間で確実に相手を葬るとするならば、その武器の有効範囲を把握し、確実な距離を保ちつつ狙いを定めなければ的中率は半減する。

 それでなくとも戦闘とは、盤上競技のように決まりきったフィールドの中を、決まりきった駒の動きで戦い合うものではないのだ。そして、それらを鷹の目のように逐一俯瞰して行えるものではないのだ。

「今のエナは、軍師の立場でいる時の十分の一の力も出し切っちゃいねえ。付け入るとするなら今だ!」

 タイミングは次の攻撃の間が空いた時だ。先程から彼は走り回りながら一定のリズムを取っていた。それによって、一瞬だが時々妙なタイミングで攻撃の手が緩むことを感じていた。正太郎は、今までの実戦経験の中で、こういった相手の息遣いとも言える微妙な感覚を見逃さない。

「だが、もし……、俺がアイツに近づけられたとは言え、烈の機体に致命傷を負わすわけにはいかねえ。さて、これからが問題だな……」


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