虹色の人類54
唯一、証明をする方法と言えば、どちらかが死を迎えた時だけ。彼らのどちらかが遺体になった時。言わば、体が玉虫色の別の人類に変化した時だけなのだ。
それ以外で明確な第三者的証拠を得ることは出来ない。そう。今の人類科学や医学では、お互いのどちらかが死ぬまで識別不可能というわけである。
「さあ、どうした? 今すぐ証明して見せろ! 貴様が貴様である確証を!」
拘束衣の大膳は、顔だけ露出された大きな体をすり寄せ、物凄い表情で迫って来る。どうやら彼も他意はないらしい。いつも真剣で実直な部分は鳴子沢大膳そのものなのだ。
尋問側の大膳は、その迫力に
(こ、こいつめ……、我ながら何という奴だ!! この私に強引に証明を求めて来るとは! ……ということは私自身が今すぐここで死ぬか、こ奴を私が殺すかでしか確かな証明ができぬということだ。こ奴はそのことを十分に心得ている。だが、しかし、こ奴とてよもや私が自死をするとは考えていないだろう。すると、こ奴の狙いとは……もし、私が今ここでこ奴を殺したとして、こ奴が虹色の人類の姿に変わらなかったとしたならば、それは私にとって不測の事態ということになる。こ奴はそこまで想定して私を煽り立てているということに他ならない……)
この時点で、尋問側の大膳は、微妙に自分自身が本物であるという自信に欠けてしまっていた。
何と言っても、流石に相手は右を向いても左を向いても中身は鳴子沢大膳なのである。敵は言葉通り自分自身なのだ。どんなに弱みを隠していても、彼らの本質は互いに筒抜けである。どんなに彼らが有能であろうとも、彼ららの性格というのは、物事に対して念には念を入れ石橋を叩いて渡るといった具合なのだ。それは良い意味で慎重という意味を示すが、悪い意味として考えれば臆病とも言える。拘束衣の大膳は、彼らのそういったネガティブな部分を完全に理解した上で煽りの言葉を放って来たのだ。
尋問側の大膳は、拘束衣側の大膳の顔を恨めしそうにじっと見つめた。無論、互いに引くつもりなどさらさらない。
そこでさらに拘束衣側の大膳が再び煽り立てて来た。
「おい貴様!! 貴様は、この世界にこの体たらくな王政府があることで、さらなる混乱が起きていることを知らぬのか!? よもや知らぬとは申すまいな!!」
「な、なんだと!?」
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