虹色の人類55

「このペルゼデール・ネイションとかいう軟弱なシステムによる国家が出来たお陰で、他の寄留地の人々はすこぶる苦しんでおる。偽りの善によって報酬を受けるシステムは、他の寄留地の人々に生き地獄を味わわせておるのだ!」

 拘束衣側の大膳は言い切った。それがさも現実であるかの如く。だが、

「何を馬鹿なことを言っておるのだ貴様!? そんなことあるわけが無かろう。少なくともこの第三寄留の人々を見る限りそのようなことを口にする人々はおらぬ! 全てが善き行いによって多額の報酬が支払われるというからには、この寄留の人々は善き行いという行動自体をとことん追及しておる。それによって、この寄留は凄まじい経済循環と精神的な安定を保ち続けているのだ! そして建国以来、この寄留地での犯罪件数は極わずか、数えるほどしか発生しておらなんだのだ! そんなホラ話だれが信じるものか! 言うに事欠いていい加減なことを言うな!!」 

 無論、尋問側の大膳は怒り心頭に達した。彼とてこのシステムが砂上の楼閣であることは十分に承知している。しかし、これほどまでに自分たちが行ってきたことを頭ごなしに否定されては感情的にならざるを得ない。

「いや、いい加減なのは貴様の方だ! 本当に貴様の目は節穴なのか? いいか? よく聞け! 私がこの目で見たところ、隣りの第二寄留などは徐々に格差が広がって来ておる。何故ならそれは、このシステムに重大な欠陥があるからだ! このペルゼテール・PASとかいう報酬システムのお陰で、第二寄留はおろか、第一、第四、第五……、いや、その他のペルゼデール・ネイションに加盟した寄留地で、水面下の反乱が巻き起こっておるのだ!」

「な、なんだと? これまた重ね重ねいい加減なことを言おって! なぜ善の行いで支払われるシステムに不満が生じるのだ!? この世界の人々は、あの五年前の戦乱以来特に、健全で安全なる世の中を望んでいたではないか? なのにどうして不満などが生じる? それとも何か? 人々は悪がはびこる世の中を望んでいるとでもいうのか? とてもあり得ん話だ!」

「この大馬鹿者が! 事実は事実なのだ! 現に私はこの目でそれを見てきた」

「見てきただと? ならば、何が人々の憤懣の原因なのだ!? 具体的に説明して見せろ!」

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