虹色の人類㉞


 その瞬間、エナは烈風七型の機体のコックピットの中にすっぽりと転げ落ちた。まだ半裸状態で、外れ掛けたブラを両腕で押さえつつ前かがみになってつんのめっている。

 烈太郎は、彼女の裸を誰の目にも触れさせぬように、ご丁寧にもコックピットのハッチをしっかりと閉じている。

 エナは、いきなりのことで半ば呆気にとられ、しばらく半裸の状態のまま黙りこくっていたが、何を思ったか唐突にわなわなと肩を震わせ満面の笑みで、

「だーいせーいこーう!!」

 と、歓喜の声を上げて天高く両腕を上げ、そのまま万歳をしながらピースサインを作った。

「え……? なに、なになに? どういうこと……?」

 この行動に納得いかないのは烈太郎である。彼は、鳩が豆鉄砲を食ったようなニュアンスで仮想実体を現すと、文字通り目だけをまん丸くして半裸のエナを見やった。

 エナはまだケラケラと笑いを抑えきれず、腹を抱えながら脱げかかったブラが落ちないように身をかがめ、

「もう、烈くんてば、本当に良い子ちゃんなのね。あたし感心しちゃった」

 彼女は目に涙を溜め込み、まだ笑いが止まらない。

「え、え、え? エナちゃん、これはどういうこと?」

 烈太郎は、まるで温度差の違うエナの態度に情報処理を仕切れずに混乱している。

「ごめんね、烈くん。あたし、あなたがこんなに人間みたいだとは思わなかったの」

「え?」

「名付けて北風と太陽作戦。どう? 上手く行ったでしょ?」

「北風と太陽って、もしかしてあの昔話の?」

「そうよ。あたし、今の研究所の人達と賭けをしてたの。あの烈風七型の人工知能の烈太郎君が、どんな理由があってもなかなか他の人を乗せたりしないんだって噂になっていたからね。それであたし、あなた自身からあたしを乗せる様に仕向けて見せるってみんなに言い切っちゃったのよ」

 まだケラケラと半笑いを浮かべながら話すエナ。そんな彼女の態度に、

「と、ということは、も、もしかして、エナちゃん!? オイラを騙したの!?」

 烈太郎は今更になって状況を把握した。

「あら、騙しただなんて人聞きが悪い。これは実験よ。そう、何ていうかこれは実験の一例なのよ。昔話の北風と太陽は、旅人の服を脱がすことが目的だったけど、今回はあたしが服を脱いであなたのコックピットに乗せてもらうことが目的だったと言うわけ。そうよ、これはそういう実験だったのよ」

「じ、実験……? これが実験なの?」

「そうよ、実験。あたしね、あのショウタロウ・ハザマと並び、ちまたで伝説の機体とまで称されているあなたにすっごい興味を持っちゃったのよ。いいえ、うちの研究所の人達だってみんなが興味津々だったわ。あの伝説の機体が目の前にあるっていうだけで、本当はみんな興奮気味だったのよ。それに、あなたのような人工知能が沢山世間に出回れば、みんなが幸せになれるかもしれないじゃない? だから、あなたが普段からどんな生活を送っているのか、あたしとしては知る必要があるの」

 

 

 

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