虹色の人類㉗

 烈太郎は言われるや、しょんぼりとうなだれた。

 まさかこんなことが起きるとは思わなかった。まさかエナに少し改良されただけのことで、無二の相棒に突き放されてしまおうなどとは考えても見やしなかった。

 今の烈太郎にとっては、自分が蚊帳の外にされてしまうのがとても嫌なことなのだ。寂しいことなのだ。

 彼は正太郎の弱い部分を知った事で、何が何でも役に立ちたいのだ。それが烈太郎からした思いやりなのだ。

「いいか烈、俺がここに帰ってくるまで動くんじゃねえぞ。一応感度の良い無線機は持ったが、この瓦礫の山だ。電波が届くかどうかは分からねえ。なんて言ったってその場所の壁の厚み次第だからな。とは言っても、三時間ぐらいで一度戻って来るつもりだ。まあ予定が狂えばそれも分からねえがな。何かあったら連絡する。だからお前はちゃんとそこに居ろよ」

「う、うん……」

「何だよ、そう浮かなそうな顔すんなよ。お前らしくもねえ。これが今生の別れになるわけでもあるめえによ。俺ァ、ちっとばかり気になった事を探りに行って来るだけだ。それは今後の俺たちの行動にも関わってくる大事な事なんだ」

「分かったよ兄貴。オイラ、ちゃんとここで留守番しているよ。だけど、ちゃんと時間通りに戻って来てね。オイラ、兄貴のことがとても心配なんだ」

「何だよ。どうした、急に? 根っからの戦闘マシンのくせに、いきなり甘えっ子ちゃんのメソメソ人工知能にでもなっちまったのか?」

 すると烈太郎は、またいきなり正太郎の顔の近くまホログラムを迫らせ、

「そんなんじゃないよ!! 兄貴のバカァ!! 唐変木ぅ!! オタンコナスゥ!! 人工知能の心相棒知らず!!」

 と大声を張り上げ、両腕を上下にジタバタさせて癇癪を起こす。それを受けて、正太郎は思わず腰を引いて目をまん丸くして驚いた。

「な、何なんだよ、烈。そんな急に怒るなよ……。言葉が気に障ったのなら謝るからよ、ほら悪かったってば。機嫌直せ」

 正太郎は苦笑いし、冷や汗をかきながらその場を取り繕う。だが、烈太郎のホログラムは、その場に座り込み、腕組みをし、そっぽを向いて怒りを露わにしている。

 感情の表現が一層豊かになったは良いが、どうにも起伏が甚だしい。それもエナの改良によるものなのか。それとも彼の進化の段階によるものなのか。

「まあいいさ。烈、俺はもう行くぜ。なにせ時間がねえ。お土産は積もる話しか持って来るつもりはねえが、その辺で勘弁してくれや。てなわけで、じゃあな行って来るぜ」

 正太郎はそう言い残すと、影が瓦礫が積み上がった街の中にスッと消えていった。

 烈太郎はその姿をチラリと窺いながら、アッカンべーの仕草をして彼を見送った。



 

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