虹色の人類㉘


 正太郎の位置情報は、彼の持っている無線機によって烈太郎にも把握できる。がしかし、この瓦礫の山が連なる場所ではそう長くはもたない。

(兄貴ったら、本当にオイラの気持ちも知らないで……!!)

 烈太郎はそう腹を立てながらも、しっかりその発信源の場所を意識で追っている。

 その時、突如瓦礫の山が佇む反対側から物音がした。

「え……!?」

 彼は音感センサーでただちにそれを察知すると、その他の熱感センサーやスペクトルセンサー、簡易レーダー機能をも確認する。

(あ、あれ……? みんな正常に作動してるのに……。オイラ全然気付かなかった……)

 烈太郎の音感センサーは、彼の機体の感覚機能の中でも一番後に反応するように出来ている。にもかかわらず、一番最初に反応したのは音感センサーだった。逆に言えば、他のセンサーが音感センサーより後に反応しているのだ。

 烈太郎は、この世に製造されて初めて覚える違和感に緊張が走る。

(な、なに……どういうこと? 一体なにが近寄って来たんだ!?)

 さすがの彼でもこの状況に警戒心を抱かずにはおれない。彼は咄嗟に仮想実体であるホログラムを引っ込めた。そして本体を立て直し、臨戦態勢を整え、武器類の安全装置を解除した。その瞬間、辺りが硬直したようにシンとし、異様な緊張が走る。すると、

「烈くーん、あたしよ、あたし。エナ・リックバルトよう。撃たないでぇ」

 また気の抜けた言い様の聞き慣れた女の声が聞こえて来る。

 なんと、その声とともに瓦礫の山の正反対の物陰から現れたのは、相変わらずダブダブの戦闘服を身にまとった金髪の美少女の姿である。

「エ、エナちゃん……、どうしてここに!?」

 烈太郎は思わず構えていた砲身を落とした。





「クッソ……!! さすがにこれはきっついな……」

 正太郎は街が崩壊した瓦礫の山の合間を縫うように突き進んでいた。だが、容易に踏み入れられる足場も無ければ、背丈以上に起伏のある瓦礫の凹凸が彼の行く手を間髪入れず遮っているのである。

「チッ……! いつから俺ァ冒険家もどきになったんだ。確かに俺ァ自分なりの調査に来たんだが、超文明のお宝探しや未確認生物UMA探しにブラフマデージャくんだりに足を運んだわけじゃないんだぜ? まったく、これで幻の猿人ブーゴンにでも出くわしちまったら洒落にもならねえな」

 彼は言いつつ、汗水を額に流しながら必死で瓦礫の崖をよじ登り、そして薄暗くなった足元をライトで照らしそっと降りる。

 そんなことの繰り返しを一時間以上続けていると、彼の頬にスッと風の撫でる感触があった。

「クッ……。ようやくここまでたどり着いたか。中心街と軍事施設を抜ける専用坑道の跡だ。これを辿れば、大統領府まで直接行ける」

 正太郎は言いつつ腕の端末に目を向けると、

「おっと、もういい時間になっちまったな。早くしねえと、また烈の奴がへそを曲げちまうかもしれねえ。さっさと前に進むか」

 そう言って彼は、また真っ暗な坑道の足元をライトで照らしながら歩き出す。一歩足を踏しめるごとに、ガリッと音がして大粒の瓦礫がつぶされてゆく。



 

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