虹色の人類⑩


「そうか、それで……」

 正太郎は納得した。エナが彼を深層の部分で殺したがる理由の一つが。

 つまり、彼はこの世界に必要不可欠な人物でもあるが、敵に回した時に一番厄介な存在になり兼ねない。彼女は常々そう思っているということだ。

「今までのあたしたちの機関の研究によると、アイツら……そう、もう一つの人類は、あたしたちを一個人として複製を行うと、あのピカピカした身体から、寸分違わない容姿に変換することまでは分かっているわ。でも、どうやら中身だけは違う。中身は確かに思考も記憶もおおよそのコピーをしているようなんだけど、さっきも言ったように、コピーした人間の心の深層の部分をダイレクトに行動に表してしまうようなのよ」

「そ、それは、みんな……百パーセントの確率で行動がそうなのか?」

 正太郎が問うと、

「ううん」

 と彼女はかぶりを振り、

「それだけはハッキリしないわ。だって、複製される被対象者の深層心理の部分なんて誰しもが知り得ることではないからね。たまたま知り得たサンプルとの照合で予測できた物がそうだったというだけよ。つまり、あたしたちの見解は憶測の域を超えていない。でもね、少なくともコピーされたあたしが言うのだから間違いないわ。そしてこれだけは言える」

「何だ?」

 正太郎は聞き入るように問い質す。すると、

「コイツらは本当に危険な存在よ」

 エナは声を低めて語った。彼女の目は真剣だった。

 本来なら彼女にとって、自らをコピーされて深層心理を露呈されたことは恥であり、屈辱的事実であったに違いない。

 もし、これで本当に彼女の複製が羽間正太郎を殺してしまっていたのなら、彼女は後悔の念を抱くどころか、罪の意識に苛まれて二度と立ち上がることさえ出来なくなっていたかもしれない。

 人間的に興味と好意を抱いている相手に対し、社会的な理由で根底に殺意を抱いているなど、矛盾というべき感覚である。

 だが、その矛盾した心理の闇の部分がダイレクトに表現されてしまったというのであれば、それはその力の方が強かったという証明なのである。

 エナ自身も、どうしてこうなってしまったのかは余り理解できていない。しかし、それが事実であるということだけは真摯に受け止めているといった次第なのだ。

「ショウタロウ・ハザマ。ね? これがどういう事態だということが解かって? このままでは、あたしたち人類は、アイツら……、そう、もう一つの人類に滅ぼされてしまい兼ねないわ」



 

 


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