虹色の人類⑨
「ねえ、ショウタロウ・ハザマ。もう一つ質問。なぜ、もう一つの人類が、あたしの姿であなたを殺そうとしたのか解かる?」
「い、いや……。てんで解からんが……」
するとエナは、笑い涙を溜め込みながら襟を正し、取り繕うように表情を引き締めた。おのずと正太郎は、ここがきっと彼女の話の要点なのだろうと感覚的に察した。
「驚かないで聞いてね、ショウタロウ・ハザマ。それがあたしの本心だからよ。ううん、そこがあたしの心の根底にあるからよ」
正太郎はあまり驚かなかった。二度も彼女に助けられた身でありながら、それは薄々感じていたことだったからだ。
彼女、そうエナ・リックバルトは、羽間正太郎という存在に多大なる興味を抱き、そして恋愛感情以上の不可解な好意を抱いている。だが、その反面に、彼という存在があり続けていることで、自分と自分に関わる者たちの人生が激しく転換してしまったことへの憎悪も抱いている。
この人さえいなければ。この人さえ自分の目の前に現れなければ――
そんな自分でさえ気がつかない感情の憤りを彼女は隠し持っている。
「なるほど……。嫌よ嫌よも好きのうちってね……。君が俺を殺したがる理由も解からなくもない……」
正太郎が軽いにやけ笑顔でそう答えると、
「そ、そんな風にハッキリいわないで! べ、別にあたし、あなたのことを本当にそう思っているわけじゃないのよ!」
と、顔を真っ赤に染めながら、
「あ、あたしは……あたしはね。本当に、現実的にあなたを殺したいとなんて思ってやいやしないわ。ただ、あの〝別人類〟と呼ばれるアイツが悪いのよ」
エナはしどろもどろになりながら答えた。
「ほう……、〝アイツ〟がね」
「そうよ、アイツよ。ここもきちんと聞いてね。アイツは……いや違うわ。アイツらは、と訂正するわね。そうアイツらは、あたしたちの心も体もおおよその状態で複製できる能力をもった存在なのよ」
「む……、なんだと!?」
正太郎は、それを聞いて思わず背筋が寒くなった。彼は、過去に出会った珍しい発明品の中でも、そういった複製能力についての良い記憶が無い。
「何のためにあたしたち人類を複製をするのか? どうしてアイツらが複製なんかするのか? それはまだ、あたしたちの研究機関でも情報を集めている段階なの。でも良かった。もし、あなたがアイツらに囚われて、あなたの複製があたしたちの敵になったら、それは本当の一大事だものね」
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