虹色の人類⑪

 もう一つの人類に滅ぼされてしまい兼ねない――

 その意味は、正太郎の胸の中に重く伝わって来た。

 彼を殺そうとした〝複製人類〟は、エナの深層の部分をダイレクトに表現したが故の行動だった。だが本来は、決して彼女は正太郎を殺してしまいたいとは思ってなどいやしない。

 にもかかわらず、エナの複製人類がそういった行動に出てしまったのは、〝もう一つの人類〟が、被対象者の心の闇の部分を過剰に読み取っていたからだ。ここから考えられるのは、それら〝もう一つの人類〟がそういう特性を持っているということ。つまり、これこそが彼らを語る上で避けて通れない必要事項というわけだ。

 そして、その事象についてどんなに確証が得られなくとも、今までの事実を踏まえれば、そう考えざるを得ないのが現実なのだ。

「エナ……。こいつぁ参ったな。言って見れば、こりゃあ故意にエラープログラムを潜り込ませてこちら側に迫って来たってな話だな。その〝もう一つの人類〟てのが、俺には何なのかはさっぱり分からねえ。だが、奴らが俺たちの人類を本気で滅ぼしに来てるっていう意図だけはまざまざと伝わって来る。こいつぁ厄介だな」

「ええ、ショウタロウ・ハザマ。あなたの言う通りよ。〝もう一つの人類〟は、あたしたちの人類に対して事実上の宣戦布告をしている事だけは確かだわ。それに、この事はどうやらあたしたちの人類が地球に誕生した時から……いいえ、誕生する以前から決まっていたことらしいのよ」

「な……、なんだって!?」

「あたしたちの研究機関もバカではないわ。あの第十五寄留ブラフマデージャを取り仕切っていた〝黄金の円月輪〟という組織や、あなたも良く知っているダイゼン・ナルコザワ氏が中心となって動いている〝ペルゼデール・オークション〟という組織だって、それをある程度そのことは承知していることまでは分析済みなの。だって、そうでなければ、どの組織だってそれぞれにこんな混沌とした状況を打ち出して来るなんて可笑しいもの。どの国、どの組織の人たちだって、あたしたち人類を少しでも生き永らえさせようと必死なのだということよ」

 正太郎はエナの言うことにうなずかないではいられなかった。これまで彼が関わって来た人々の行動は、どこか理解不能で、どこか不可思議な一面を持っていたことは確かだった。言われて見れば、それぞれがそれぞれの見解をもって独自の行動を起こしている。

 ペルゼデール・ネイションというヴェルデムンドの中でも一番の勢力を持った大国を作ったその意味は、多分、鳴子沢大膳や、その傍で助言を行っているエルフレッド・ゲオルグ博士らが、自らの考えで未知なる脅威に対抗し得る為に形成したと考えられる。

 さらに、アヴェル・アルサンダールが率いる〝黄金の円月輪〟に至っては、彼らがただ自分たちの国自体を滅ぼしたかったのではなく、あの真珠のような玉に国民を圧し込めることによって、何とか苦肉の策として生き永らえさせる方法を模索していたのだと考えられる。

「エナ、俺ァこうしちゃいられねえ。早えとこ、ここから出してくれ。どうやら俺にはやらなくちゃならねえことが山ほど出来たみてえだ」


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