緑色の⑭


「用意が出来ました。そちらは如何ですか?」

 クリスティーナは、隣の部屋のドアをノックした。静まり返ったホテルに響く声は、彼女のもの以外何も聞こえない。

 まだ、デュバラらの仕掛けた術が効いているのだ。術の効果は、特殊な音源か、彼らの放つ術の反作用をもってでしか解けないようになっている。

 しかし、デュバラ・デフーが入った部屋からは、気配こそ感じるが物音一つ聞こえてこない。

 気になったクリスティーナは、、客室の扉に耳を押し付けて中の様子を窺おうとすると、

「遅くなった……」

 と言って、いきなり扉が開いた。「如何せん、元の姿に戻るのに手間取ってしまってな……」

 そう言って低い声を放ち、褐色の肌をした精悍な顔立ちの男が身を現した。

「あ、あなたがデュバラ・デフーさん?」

 クリスティーナは驚いた。先程まで目にしていた緑色の化け物とは似ても似つかない姿だったからだ。

「何をそんなに見つめるのだ。……照れるではないか」

「いや……でも、何だか。あなたも元は私たちと同じ人間だったんだなあって……」

 ほのかに頬を赤く染める彼女に対して、

「失敬な。俺とて最初かられっきとした人間だ。いくら進化の道にこの身をやつしたとはいえ、人類としての誇りは忘れてはおらん」

「あら、だなんて。そんなに進化したことを後悔なさっているの?」

「そ、そうではない!! ただ、俺は……!!」

「よくってよ、デュバラ・デフーさん。そんなに無理しなくたって。住めば都、郷に入らば郷にしたがえ。慣れれば何だって素敵に見えて来るものよ。例えあんな化け物の姿だって。ね?」

「こ、この!! クリスティーナとやら。この俺を間接的に揶揄やゆしておるのか!?」

「あら、馬鹿にしてなんかないわよ。ただちょっとだけ、今のあなたの姿の方が素敵なんじゃないかなあって思って」

「む、むう……!?」

 

 

 

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